きみは林檎の匂いがする。


彼は紺色のチェスターコートを着て、白のTシャツに黒のスキニーを履いていた。

肩からレザーリュックをかけて、足元はオレンジ色の紐がついたキャンバスシューズ。

カジュアルだけど、すごくオシャレで、自分に似合うものをわかっている感じがした。


SNSにアップされていた写真で、事前に顔は知っていたけれど、実物はその何倍も綺麗な男の子だった。


「どこか入りますか? スタバなら近くに……」

「落ち着いて話せる喫茶店なら知ってるんだけど、そこでもいいかしら?」

「え、はい」

主導権を握られるわけにはいかないと、私から先に歩きはじめた。


向かったのは雑居ビルの地下にあるレトロな喫茶店。

こぢんまりしているけれど、実は有名な映画のセットに使われたこともある知る人ぞ知るお店だ。

タルト・オ・ポム・ルージュが有名で、ホットコーヒーだけで千円もするほど、敷居が高い喫茶店でもある。


「奥のソファ席、空いていますでしょうか?」

「ええ。こちらへどうぞ」 

店員に案内されて、私たちは席に座った。
 

赤色の絨毯と、クラシックのBGMが高級感を漂わせる。私はテーブルに置かれたメニューを彼のほうに差し出した。


「ここは奢るから好きなものを頼んでいいわよ」

そう言って常連面している私だけれど、実はこの店に来るのは二回目である。
< 3 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop