きみは林檎の匂いがする。
私が考えないようにしていたことを、ダイレクトに言われたような、そんな痛さが胸を貫通した。
「か、彼……いえ、佑介とはどこで知り合ったの?」
「そういう店です」
「そういう店って……」
「LGBTの人たちが集まる店ですよ」
セクシュアルマイノリティという言葉は耳にしたことがある。
偏見もないし、そのアイデンティティを周りが否定することも間違っていると思う。
でもそれはあくまで無関係でいた時の話。三年付き合っている彼がそうとなると話はまったく違ってくる。
「綾子さんは知らなかったんですか?」
「え……?」
「彼女がいることは佑介さんから聞いてましたよ。だからてっきり受け入れて付き合っているんだと思ってました」
私の存在をわかっていながら浮気していた零士くんにも腹がたつし、そんなことをペラペラと喋って浮気していた佑介にも腹がたつ。
なめられているとしか言いようがないけれど、ショックなのは浮気されていたことよりも別のことだ。
「佑介は……男の人が好きなの?」
聞きながら、心臓の鼓動が速かった。
「佑介さんは男性でも女性でもどっちでも大丈夫な人ですよ。比率的には4:6らしいです」
待って。どっちが4? どっちが6?
頭がパニックを起こしていて、余裕を保つことも忘れていた。
「でも心配ないですよ。俺から言われても説得力なんてないでしょうけど、佑介さんは綾子さんのことちゃんと好きだと思います」
「………」
言い返す気力もなかった。