きみは林檎の匂いがする。


三年間付き合って佑介の秘密に気づけなかったことも悲しいけれど、同時に府に落ちたこともある。

付き合いはじめた頃は、わりと将来のことについても話したりして、このまま順調に結婚するのだと思っていた。

でも仕事の忙しさを理由にして、お互いの両親への挨拶はずっと先伸ばしだし、いつか子供がほしいねと言っても彼は「そうだな」とその場限りのことしか言わない。


一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年になって、いつ結婚してもおかしくない歳だというのに、彼の口から結婚のけの字も出なくなった。

私に魅力がないのかもしれない。

彼女としては良くても妻にはしたくないのかもしれない。

ずっと、ずっと、ひとりで悩んでいた。

でも佑介が女性も男性も好きになれる人だと聞いて。そういう人たちが集まる店にいって、零士くんと密かに浮気をして。

彼の思考回路の中に結婚という文字なんて、最初からなかったんだと今わかった。


結婚できないからと言って、過ごしてきた時間が無駄になった。捧げてきた年齢を返せなんて、急に捲し立てる人は嫌いだ。

だから、そんなことは言わない。


でも、そんな大事な秘密があったなら、先に言ってよ。

三年間ずっと一緒にいたのに、それはズルいでしょと、泣きたくなる。


「ハンカチ貸しましょうか?」

「いらないわ」

絶対に泣くもんか。

私は精いっぱいの強がりをして、すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲んだ。

< 7 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop