再びあなたを愛することが許されるのなら
悪戯な風が招いた出逢い
序章
「ありがとうございます。先生の作品いつも読ませて頂いています。応援しています頑張ってください」
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
今日は新刊の発売に合わせて、出版社が主催するサイン会に駆り出された。
午後3時、ようやく予定の時間が終わった。
それにしても意外に多くの人が来てくれたのには自分でも驚いた。大変だったけどその反面嬉しさも大きかった。
これも今まで発行してきた書刊の販売に尽力を注いでくれた、出版社の人たちのたまものだろう。
「《《せんせい》》」
「つ、冷た!」
後ろから僕の頬にチョンとアイスのカップが触れた。
「お疲れ様でした。ようやく一段落つきましたね。アイス買ってきましたから一休みしませんか?」
「あのなぁ、田中。後ろからの攻撃はびっくりするじゃないか」
田中の頭をクシュとしてやった。
契約する出版社の担当である、田中真由美のサラサラとした髪の感触が手に伝わる。
「もう、またそれやる!」
「あ、ごめん。嫌だったか?」
ちょっと怒った様に言う田中だが、その顔は少し嬉しい様な感じに見える。
「嫌じゃないですよ。でも先生よくやりますよね、癖ですか? 前から訊いてみたかったんですけど、こうして頭に触るのって誰にでもやっているんですか?」
「そ、そんな事はない! 特定の女性しかやらないよ。見境なくやるもんか」
「そうですか、ならいいんですけどね。私も先生の《《特定》》の女性の一人と言う事ならね。先生、アイスどっちにします? 小豆抹茶と、チョコミント」
と、聞きながらも、僕の手にはチョコミントのアイスカップが手渡された。
僕は何も言わずそのアイスを受け取る。
「正解だったでしょ」
「まぁな」
ニッと、彼女の口元が微笑んだ。
「先生この後どうされます?」
「そうだな。この暑さじゃ、これからどこかに行こうなんて考えたくもないな。まだ、家に帰って原稿に向かっている方がいいかもしれない。田中は真っすぐ会社に戻るのか?」
「あ、私ですか? これから有田先生のところに行かないといけないんですよ」
「優子のところか」
スプーンに乗せた小倉抹茶アイスを口に入れ、ひと時の甘露に祝福の笑みをこぼす。
「そうなんですよ……。有田先生に頼まれていた資料を持っていかないといけないんですよ。正直、ちょっと苦手かな有田先生」
少しゆうつそうな表情に変わる。その表情から、僕にもついてきてもらいたい様な誘いの瞳がこちらに注がれた。
「いかないよ。俺が行けば《《あいつ》》仕事しなくなるから。そうなると困るだろう田中も。締め切り近いんだろ」
「……そうなんですけどね」
大学を卒業してこの出版社に入社2年目の、社会人としても編集者としても駆け出しの彼女には有田優子と言う作家は少々荷が重いのかもしれない。
優子をよく知る僕には田中の気持ちがよく分かるが、ここは彼女の為にならない。と、言えば聞こえはいいんだろうけど、今日は優子にじゃれられるのがうっとうしい気分だ。
「そう言えば、亜崎先生って学生の頃、この近くに住んでいたんですよね」
何気なく発した田中のその問いに。
とけ始めたチョコミントアイスを口にする手が、止まった。
午後4時、僕は会場の大手書店を後にした。
「それじゃ田中、優子によろしく!」
がっくりと肩を落としながら「お疲れ様でした~。」と小さく手を振って田中は僕を会場から見送った。
梅雨入り前の初夏にはまだ幾分早いこの季節。それでも今日は異常なほどの暑さだ。
青い空からさんさんと降り注ぐ陽の光と、交差点のアスファルトから照り返す熱気でどっと汗がにじみ出る。
薄っすらと向かう先が、かげろうで少し揺らいで見えた。
「この近くに住んでいたんですよね」
田中のあの言葉がなぜかまだ尾を引いていた。
この交差点の向こう側は、僕が学生時代を過ごしたあの街だ。
懐かしさと共に、いまだに胸が締め付けられる様な悲しみが込み上げてくる。
信号が変わった。
ゆっくりと交差点をわたり、中央部分に差し掛かった時、ふわっと僕の鼻をくすぐる懐かしい香りがした。
その香りは僕の横をスッと通り過ぎていった。
長い髪をたなびかせ、急いで交差点を渡ろうとしている、その女性が持つハンドバックのサイドポケットから一冊の本が落ちた。
目の前に落ちたその本を拾い上げ、表紙を見た時一瞬足が止まった。
その本は僕がまだ学生の頃ある公募に出稿し、大賞に選ばれ書籍化された初版だったからだ。反響は悪くなかったが、ある事情により発行されたのは、この第1版のみ。
初版だから発行部数は少なく、すでに絶版となっているこの本に、こうして再び街中で巡り合う事は奇跡に近いかもしれない。
すぐにその女性の姿を目で追った。
確か、白いブラウスにつばの大きな帽子をかぶっていたはずだ。
「……いた」
歩行者用信号が点滅に変わった。
足早にその女性を追いかけた。
「済みません。本落とされましたよ」
後ろから声をかける。
振り向くその彼女の顔をこの目にした時、僕の胸は一瞬にして猛烈な痛みに襲われた。
痛み……、いや苦しみ。そうじゃない途轍もなく深い悲しみだった。
思わず声に出してしまった。彼女のその名を
「沙織」
本を差し出したまま、体が硬直して動かない。
彼女はそんな僕を不思議そうに見つめ「あ、」と僕の手にある本に気が付いた。
「あ、ありがとうございます」
僕の手からその本は彼女にの手に戻る。
その時少し彼女の指が僕の指に触れた。
僕が感じた懐かしい香りは、沙織だったんだ。
沙織は本を受け取ると
「ご親切に本当にありがとうございました。この本さっき知人からもらったばかりなんです。もうどこにも売っていないんで、失くすと大変でした。本当にありがとうございます」
深々とお辞儀をして僕に礼を言った。
懐かしいあの声。頭をあげ、僕の目に映し出される沙織のその顔。その姿。
彼女は何も変わっていなかった。
あの時の沙織のままだった。
受け取った本をしっかりとハンドバックに入れ、微笑みながらまた「ありがとうございます」と言い、その姿をこの街に溶け込ませた。
呼び止めようとすれば、出来ただろう。
でも今、彼女を呼び止めてどうすればいいんだ。
今さら何を話せばいいんだ。
たとえそれが真実であっても、今の彼女には何も関係のない事なんだから。
今村沙織。
彼女はかつて僕の恋人だった女性だった。
僕にとって一番大切な女性だった。
僕に残る記憶が、僕にだけ残る記憶が、あふれ出す。
街の中に溶け込みすでにその姿を消し去った彼女の姿を、未だに呆然としながらこの目で追っていた。
いくらこの街にまた来てしまったにせよ。またこうして沙織に出会った事は、偶然が巻き起こした悪戯なのだろうか。
だとするならば、それは僕に課せられた贖罪なのだろうか。
僕が、彼女から逃げた罪。
そうだ、僕は彼女から逃げたんだ。その罪は重い。そしてその罪を僕は自分で押し殺していた。
もう取り戻す事は出来ないその罪に、僕は向かうことすらできないでいた。
沙織には僕の記憶は一切残っていない。
僕だけの記憶を彼女は消し去ったのだ。
沙織自身が、僕の記憶を消し去った。いや、そうさせたのはこの僕自身であるんだ。そうだ彼女から僕の記憶を奪ったのは、この僕自身なんだから。
僕だけが持つ沙織の記憶。
僕だけを消し去った沙織の記憶。
元気そうだった。幸せそうに生きていてくれていた。
そうだ、今更もう何も変わらない。
変えてはいけないんだ。
僕が今まで送り続けてきたメッセージは、彼女に届いているんだろうか?
沙織が持っていたあの本。
沙織は僕の、いや僕と沙織と二人で描いたあの物語を、これから読もうとしているのかもしれない。
だとしても、彼女には一つの物語としか映らないだろう。
それでいい。
もう取り戻す事は出来ない記憶なんだから。
二度と手にする事は無い僕たちの思い出。
およそ180日間のあいだ、僕らは一生分の恋をした。
その恋は彼女の大切な人たちを守るためにも、必要だった恋。
僕は高校生の時、ある友人いや、恋人だった彼女と誓った。
必ず小説家になると。
その誓い合った友人との恋は、形を変え同志として今は同じ目標と活動に、この人生と言う時間を使っている。だが、彼女への気持ちはあの時からまだ、ずっと引きずっていたんだろう。
引きずりながらもどんなに離れていても、僕らの想いは変わらなかった。
高校時代の恋。
その恋心はまだ幼く、淡いものだったものかもしれない。
富喜摩美野里へのあの想いは、今でも大切に僕の中にある。
多分、美野里の想いも今でも変わってはいないと思う。
特質な環境の中にいた美野里は、自分の進むべく道を切り開くために前に前にと進もうと懸命に努力していた。
その姿を、彼女の想いを僕はこの体で感じたんだと思う。
だからこそ、僕らはその目標に向かうべく自分たちの道を歩み始めたんだ。
僕らの恋は形を変え終わりを告げたが、その記憶はずっと残っている。
新たに芽生えた沙織との恋は、永遠に続くものだと信じていた。だが、その恋も突如終わりを告げた。
告げなければいけなかった。
沙織が僕の記憶を失くすと言う事で、僕らは終わりを告げた。
今村沙織、彼女とは大学3年の時出逢った。
あの時吹いた風は僕らの運命を変えた。
運命と言う名の悪戯が呼び起こした風が、僕らを引き寄せたのかもしれない。
歩道で立ち竦む僕に、また生暖かい風がまとった。
その時僕は涙を流し、大声で
「馬鹿野郎」と叫んでいた。
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
今日は新刊の発売に合わせて、出版社が主催するサイン会に駆り出された。
午後3時、ようやく予定の時間が終わった。
それにしても意外に多くの人が来てくれたのには自分でも驚いた。大変だったけどその反面嬉しさも大きかった。
これも今まで発行してきた書刊の販売に尽力を注いでくれた、出版社の人たちのたまものだろう。
「《《せんせい》》」
「つ、冷た!」
後ろから僕の頬にチョンとアイスのカップが触れた。
「お疲れ様でした。ようやく一段落つきましたね。アイス買ってきましたから一休みしませんか?」
「あのなぁ、田中。後ろからの攻撃はびっくりするじゃないか」
田中の頭をクシュとしてやった。
契約する出版社の担当である、田中真由美のサラサラとした髪の感触が手に伝わる。
「もう、またそれやる!」
「あ、ごめん。嫌だったか?」
ちょっと怒った様に言う田中だが、その顔は少し嬉しい様な感じに見える。
「嫌じゃないですよ。でも先生よくやりますよね、癖ですか? 前から訊いてみたかったんですけど、こうして頭に触るのって誰にでもやっているんですか?」
「そ、そんな事はない! 特定の女性しかやらないよ。見境なくやるもんか」
「そうですか、ならいいんですけどね。私も先生の《《特定》》の女性の一人と言う事ならね。先生、アイスどっちにします? 小豆抹茶と、チョコミント」
と、聞きながらも、僕の手にはチョコミントのアイスカップが手渡された。
僕は何も言わずそのアイスを受け取る。
「正解だったでしょ」
「まぁな」
ニッと、彼女の口元が微笑んだ。
「先生この後どうされます?」
「そうだな。この暑さじゃ、これからどこかに行こうなんて考えたくもないな。まだ、家に帰って原稿に向かっている方がいいかもしれない。田中は真っすぐ会社に戻るのか?」
「あ、私ですか? これから有田先生のところに行かないといけないんですよ」
「優子のところか」
スプーンに乗せた小倉抹茶アイスを口に入れ、ひと時の甘露に祝福の笑みをこぼす。
「そうなんですよ……。有田先生に頼まれていた資料を持っていかないといけないんですよ。正直、ちょっと苦手かな有田先生」
少しゆうつそうな表情に変わる。その表情から、僕にもついてきてもらいたい様な誘いの瞳がこちらに注がれた。
「いかないよ。俺が行けば《《あいつ》》仕事しなくなるから。そうなると困るだろう田中も。締め切り近いんだろ」
「……そうなんですけどね」
大学を卒業してこの出版社に入社2年目の、社会人としても編集者としても駆け出しの彼女には有田優子と言う作家は少々荷が重いのかもしれない。
優子をよく知る僕には田中の気持ちがよく分かるが、ここは彼女の為にならない。と、言えば聞こえはいいんだろうけど、今日は優子にじゃれられるのがうっとうしい気分だ。
「そう言えば、亜崎先生って学生の頃、この近くに住んでいたんですよね」
何気なく発した田中のその問いに。
とけ始めたチョコミントアイスを口にする手が、止まった。
午後4時、僕は会場の大手書店を後にした。
「それじゃ田中、優子によろしく!」
がっくりと肩を落としながら「お疲れ様でした~。」と小さく手を振って田中は僕を会場から見送った。
梅雨入り前の初夏にはまだ幾分早いこの季節。それでも今日は異常なほどの暑さだ。
青い空からさんさんと降り注ぐ陽の光と、交差点のアスファルトから照り返す熱気でどっと汗がにじみ出る。
薄っすらと向かう先が、かげろうで少し揺らいで見えた。
「この近くに住んでいたんですよね」
田中のあの言葉がなぜかまだ尾を引いていた。
この交差点の向こう側は、僕が学生時代を過ごしたあの街だ。
懐かしさと共に、いまだに胸が締め付けられる様な悲しみが込み上げてくる。
信号が変わった。
ゆっくりと交差点をわたり、中央部分に差し掛かった時、ふわっと僕の鼻をくすぐる懐かしい香りがした。
その香りは僕の横をスッと通り過ぎていった。
長い髪をたなびかせ、急いで交差点を渡ろうとしている、その女性が持つハンドバックのサイドポケットから一冊の本が落ちた。
目の前に落ちたその本を拾い上げ、表紙を見た時一瞬足が止まった。
その本は僕がまだ学生の頃ある公募に出稿し、大賞に選ばれ書籍化された初版だったからだ。反響は悪くなかったが、ある事情により発行されたのは、この第1版のみ。
初版だから発行部数は少なく、すでに絶版となっているこの本に、こうして再び街中で巡り合う事は奇跡に近いかもしれない。
すぐにその女性の姿を目で追った。
確か、白いブラウスにつばの大きな帽子をかぶっていたはずだ。
「……いた」
歩行者用信号が点滅に変わった。
足早にその女性を追いかけた。
「済みません。本落とされましたよ」
後ろから声をかける。
振り向くその彼女の顔をこの目にした時、僕の胸は一瞬にして猛烈な痛みに襲われた。
痛み……、いや苦しみ。そうじゃない途轍もなく深い悲しみだった。
思わず声に出してしまった。彼女のその名を
「沙織」
本を差し出したまま、体が硬直して動かない。
彼女はそんな僕を不思議そうに見つめ「あ、」と僕の手にある本に気が付いた。
「あ、ありがとうございます」
僕の手からその本は彼女にの手に戻る。
その時少し彼女の指が僕の指に触れた。
僕が感じた懐かしい香りは、沙織だったんだ。
沙織は本を受け取ると
「ご親切に本当にありがとうございました。この本さっき知人からもらったばかりなんです。もうどこにも売っていないんで、失くすと大変でした。本当にありがとうございます」
深々とお辞儀をして僕に礼を言った。
懐かしいあの声。頭をあげ、僕の目に映し出される沙織のその顔。その姿。
彼女は何も変わっていなかった。
あの時の沙織のままだった。
受け取った本をしっかりとハンドバックに入れ、微笑みながらまた「ありがとうございます」と言い、その姿をこの街に溶け込ませた。
呼び止めようとすれば、出来ただろう。
でも今、彼女を呼び止めてどうすればいいんだ。
今さら何を話せばいいんだ。
たとえそれが真実であっても、今の彼女には何も関係のない事なんだから。
今村沙織。
彼女はかつて僕の恋人だった女性だった。
僕にとって一番大切な女性だった。
僕に残る記憶が、僕にだけ残る記憶が、あふれ出す。
街の中に溶け込みすでにその姿を消し去った彼女の姿を、未だに呆然としながらこの目で追っていた。
いくらこの街にまた来てしまったにせよ。またこうして沙織に出会った事は、偶然が巻き起こした悪戯なのだろうか。
だとするならば、それは僕に課せられた贖罪なのだろうか。
僕が、彼女から逃げた罪。
そうだ、僕は彼女から逃げたんだ。その罪は重い。そしてその罪を僕は自分で押し殺していた。
もう取り戻す事は出来ないその罪に、僕は向かうことすらできないでいた。
沙織には僕の記憶は一切残っていない。
僕だけの記憶を彼女は消し去ったのだ。
沙織自身が、僕の記憶を消し去った。いや、そうさせたのはこの僕自身であるんだ。そうだ彼女から僕の記憶を奪ったのは、この僕自身なんだから。
僕だけが持つ沙織の記憶。
僕だけを消し去った沙織の記憶。
元気そうだった。幸せそうに生きていてくれていた。
そうだ、今更もう何も変わらない。
変えてはいけないんだ。
僕が今まで送り続けてきたメッセージは、彼女に届いているんだろうか?
沙織が持っていたあの本。
沙織は僕の、いや僕と沙織と二人で描いたあの物語を、これから読もうとしているのかもしれない。
だとしても、彼女には一つの物語としか映らないだろう。
それでいい。
もう取り戻す事は出来ない記憶なんだから。
二度と手にする事は無い僕たちの思い出。
およそ180日間のあいだ、僕らは一生分の恋をした。
その恋は彼女の大切な人たちを守るためにも、必要だった恋。
僕は高校生の時、ある友人いや、恋人だった彼女と誓った。
必ず小説家になると。
その誓い合った友人との恋は、形を変え同志として今は同じ目標と活動に、この人生と言う時間を使っている。だが、彼女への気持ちはあの時からまだ、ずっと引きずっていたんだろう。
引きずりながらもどんなに離れていても、僕らの想いは変わらなかった。
高校時代の恋。
その恋心はまだ幼く、淡いものだったものかもしれない。
富喜摩美野里へのあの想いは、今でも大切に僕の中にある。
多分、美野里の想いも今でも変わってはいないと思う。
特質な環境の中にいた美野里は、自分の進むべく道を切り開くために前に前にと進もうと懸命に努力していた。
その姿を、彼女の想いを僕はこの体で感じたんだと思う。
だからこそ、僕らはその目標に向かうべく自分たちの道を歩み始めたんだ。
僕らの恋は形を変え終わりを告げたが、その記憶はずっと残っている。
新たに芽生えた沙織との恋は、永遠に続くものだと信じていた。だが、その恋も突如終わりを告げた。
告げなければいけなかった。
沙織が僕の記憶を失くすと言う事で、僕らは終わりを告げた。
今村沙織、彼女とは大学3年の時出逢った。
あの時吹いた風は僕らの運命を変えた。
運命と言う名の悪戯が呼び起こした風が、僕らを引き寄せたのかもしれない。
歩道で立ち竦む僕に、また生暖かい風がまとった。
その時僕は涙を流し、大声で
「馬鹿野郎」と叫んでいた。
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