天満つる明けの明星を君に②
鬼陸奥に向かう道中、眼下を見下ろしながら地理の復習をした。

地図上にはない山の起伏や妖の集落の場所などをおさらいしては暁が芙蓉に手渡された菓子を食べて、なんとも言えないのどかな時を過ごした。

その間に狐狸がのそりと起きてきて天満の膝に乗ると、またごますりをするように手をこすり合わせて見上げてきた。


「天様、お願いがあるんでさあ」


「お願い?なんだろう、なに?」


「おら、主さまに尽くします。頑張りますから、ひとつ天様にお願いを聞いてほしいでやす」


狐狸――通り名を‟ぽん”と言い、衆目がある手前上、暁は人前では‟狐狸君”と呼んでいたが、天満と三人きりになったことで親しげに通り名を呼んだ。


「天ちゃん聞いてあげようよ。ぽんちゃんどうしたの?」


ぽんは言いにくそうにしながらも、余程の思いなのか、垂れた目をうるうるさせた。


「実は田舎に幼馴染が居まして、これが訳ありなんでさあ。少しでもいいんで、田舎から出してやりたいんです。おら、あの娘っ子を助けてやりてえっす。だから主さまに口添えを…」


「娘っ子?訳ありってなに?」


天満が問うてもぽんは口をもごもごさせるだけで言わず、少し滞在させる位ならきっと朔も許してくれるだろうと頷いた。


「いいよ、僕から朔兄に言ってあげる」


「やった!ありがとうございやす!お嬢もありがとうございやす!」


「まっかせて!私からも父様にお願いしてあげるからねっ」


腹をぽこぽこ叩いて喜ぶぽんをふたりしで撫でまくっていると、鬼陸奥の上空に着いた。

――暁の後見人になってから数回しか戻って来ていないため、懐かしいと思うと同時に、ここでの幸せだった時と、惨劇を思い出した。


「天ちゃん…顔色悪いよ?大丈夫?」


「ああ、うん、大丈夫。ほら暁ちゃんと仮面被って」


牛車が緩やかに螺旋を描きながら下降する。

暁の手をしっかり握って心構えをした。
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