天満つる明けの明星を君に②
「眠れなかったという顔をしてるわね、それはそうよね」


芙蓉、柚葉の女だけの茶会に呼び出された雛乃は、目の下のくまを化粧で隠していたものの、それを看破されて曖昧に頷いた。


「私だって天満さんと同じ部屋だったら寝れないもの。ずっと耳を澄ましてるわ」


「私も。だって天満さんって主さまと鬼灯様の顔のさらに選りすぐったとこだけを集めた顔をしてるもんね、同じ空間に居たら意識しちゃう」


ふたりにとって天満は偶像的象徴であり、ことあるごとにきゃっきゃと騒いでいたのは知っていた。

ただしそれは恋心ではなく、ふたりとも夫を深く愛していることを知っているため、雛乃はぱちんと両頬を叩くと、正直に打ち明けた。


「その…意識してしまって…恐れ多くも私、天様に…その…こ、恋を…」


途端、ぱっと顔を見合わせて表情を輝かせたふたりは、雛乃の手をそれぞれ取って握り締めて力説をした。


「天満さんはもう随分長い間独り身を貫き通してきたけれど、あなたが来て変わったわ。私たちとも目を合わせないのに、あなたとはしっかり目を合わせて話をしているし、意識もしていると思うの。臆することはないわよ、突撃よ!」


「芙蓉ちゃん、突撃ははしたないよ…」


「そう?女から迫ったっていいじゃない。いい男だったら突撃位するわよ、私だって朔に…なんでもないわ」


自らの体験を語りかけて慌てて口を塞いだ芙蓉だったが、ふたりに力説されて少し勇気が出た雛乃は、もじもじしながらふたりの指を握った。


「じゃあ…衝立を外すところからやってみます…」


「天満さんの寝顔を見れるのよ!?代わってもらいたい位だわ!」


きゃあと黄色い声を上げるふたりの能天気さに、なんだか救われた思いになった雛乃は、決意を胸に茶会を楽しんだ。
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