天満つる明けの明星を君に②
衝立をやめたことで、互いの寝顔が露わになることとなった。

敷いた床にもそれなりの距離があるが、鬼族は視力が良いため、気休め程度にしかならない。

こんな状況じゃ眠れない、と思ったものの――日々疲れ切っている雛乃は、目を閉じた瞬間から眠りに落ちてしまった。

そうなると、寝たふりをしていた天満はもそりと起き上がってがりがり髪をかいて息をついた。


「寝ちゃったか…。なんで突然衝立を無くすなんて言い出したんだろ…」


雛乃が起きる気配はなく、床から這い出てその寝顔を見に行った。

…雛菊の寝顔と全く変わらない。

何故雛菊だった時の記憶を持っていないのかと最初は少し落胆したものの、雛菊には変わりないのだ。

会った時から魂が叫んでいたのだから。

待っていた女が現れた、と。


記憶を持ち合わせていなくても、雛菊が好きだった食べ物や仕草などは全く変わっていない。

ただ、記憶がないだけ。

今となっては別に記憶がなくてもいいと思っていた。

彼女は雛菊であり、雛乃である――自分がそれを理解していれば、大丈夫。


「ああでも…こんな状況が続くと僕もさすがに…」


すやすや。

愛らしい寝顔を見続けていると、何か間違いを犯してしまうかもしれないと自身を自制した天満は、また床に戻って真ん丸になって時をやり過ごした。


そして数時間後目覚めた雛乃は、すでに天満が床に居ないことに気付くと、身支度を整えて庭に出た。

そこには天満と暁の姿が在り、暁は木刀を手にしていたが、天満は素手。

ひょいひょいと攻撃を躱しながら無駄な動きがあることを注意していて、いつもと変わらない様子だった。


「私ったら寝入っちゃうなんて…。天様の寝顔…見たかったな…」


自分は意外と図太いのかもしれない――

次こそはと意気込み、暁の部屋を掃除するべく腕まくりをしてその場を離れた。
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