天満つる明けの明星を君に②
普段は妙法と揚羽は持ち歩いていなかった。

だが現在は吉祥が滞在中であり、目を配らなくてはならないため、常に帯刀して注意を怠らなかった。

その妙法と揚羽が――


『おお、妙法の、思い出さぬか』


『揚羽よ、我らが自我を得た時の主だった娘に似ている。あの妖気よ、娘に瓜二つだ。懐かしや』


彼らが勝手に話すのは常なことだったが、暁がかつて彼らの所有者であった女に似ているという話をしたのは、初めてのことだった。

…確かにこうして暁が怒りを見せることはとても珍しい。

いつも笑顔で朗らかだが、雛乃の窮地に目の色が変わっている。


「今忙しいから黙っているんだ」


『主殿、我らが加勢してやってもよい。さあ、娘の手に我らを』


「いや、そんな危険な目には遭わせない。まだ試練も済んでいないだろう」


『易々と突破するであろう。次の主は娘に決めたぞ』


勝手に主を選定して笑い声を上げている妙法と揚羽の鍔なりと会話は吉祥の耳にも届いていた。

目の前の暁はまだ身体は小さくて脅威には見えなかったが…何しろ発している妖気がものすごい。

夜叉の仮面で表情が分からないところがまだ一段と恐ろしく、思わず後ずさりした吉祥は、暁の背後で冷えた表情をしている天満に駆け寄って背中に隠れた雛乃を睨みつけた。


「私はただ会話をしようとしただけだが」


「雛ちゃんが誰から逃げてきたと思っているんだ?言っておくが、僕は今後もあなたの目に雛ちゃんを晒すつもりはない。さあ、部屋に戻って」


ぎり、と歯ぎしりした吉祥だったが、天満がいかに強いかはその佇まいで分かる。

雛乃があたかも自然に天満の腕に抱き着いている姿を見て目の前が真っ赤になっていたが、詰め寄ろうとする吉祥を爺が引き留めた。


「坊ちゃま、今はこの辺でどうか」


多勢に無勢。

吉祥は逃げるようにその場を後にしたが――憎しみは募っていった。
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