天満つる明けの明星を君に②
吉祥が去った後、夜叉の仮面を外して振り返った暁の目は――鮮やかな赤に染まっていた。

諸悪の根源を追い払った暁の自信に満ちた表情を見た天満は、手招きをして呼び寄せると、優しく頭を撫でてやった。


「よくできたね。偉い偉い」


「うん、天ちゃんより先に着いたから私が追い払わないとと思って。雛ちゃん大丈夫?」


「大丈夫です。暁様、ありがとうございます」


思いきり胸を反らして威張る暁は妖気を収めて雛乃の手を取ると、さっさと自室に入って行った。


「暁、鍛錬の続きは…」


鍛錬を切り上げて矢の如く駆け出してどこかへ行ってしまった暁を追いかけて今回の場に出くわした天満は、自身の危機管理能力を反省しつつ、縁側に腰かけた。


「吉祥…思ったよりしつこそうだ」


――ただ傍に居て守ってやるだけでは、あの男は諦めないだろう。

何か決定的な場面を見せつけなければ、納得しないかもしれない。


「全く迷惑な…」


ぼやいて冬の晴天を見上げていると、ようやく落ち着いた雛乃が暁の部屋から出て来て隣に座った。


「さっきは助けて頂いてありがとうございました」


「いや、僕は何もできなかったからごめんなさい。…雛ちゃん、ちょっと強引な手に出るかもしれないけどいいかな」


「?強引って?」


「その時にならないと分からないけど、吉祥が肩を落として帰るようなこと、かな」


元より天満に全幅の信頼を置いている雛乃は、何も疑念を持つことなく頷いた。

あの男がこの屋敷から早々と出ることを願っているし、顔も見たくないし、話しかけてほしくもなかった。


「じゃあまた吉祥と出くわしたらそうするから」


「はい」


一緒にいつまでも空を見上げて、同じ時を共有した。
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