天満つる明けの明星を君に②
吉祥が雛乃に詰め寄った件は、すぐ芙蓉と柚葉の耳に入った。

暁がはじめて本気で怒ったこともあってか、やはりかという思いもあり、自分の腹を痛めた子でもあり、‟天満と雛菊の子”でもある暁の髪を丁寧に櫛で梳いてやった。


「あまり怖がらせては駄目よ、あの男は小心者なのだから」


「ううん、私は怖がらせてないもん。あのね、天ちゃんの刀が…」


そこから怒涛の如く暁のおしゃべりが始まり、それを目を細めて聞いてやっていた芙蓉は、くるくる変わる表情を楽しみながら話終わるのを待った。


「雛乃さんは天満さんにとってとても大切な存在になるかもしれないのだから、あなたが介入しては駄目。今あのふたりはとても大切な時ですからね」


「うん、分かってるよ母様。雛ちゃんはねえ、天ちゃんのこと好きだと思うんだけど、天ちゃんはどうなのかなあ?」


「雛乃さんは身分が違うからと躊躇しているのよ」


身分、という概念がまだよく分からない暁だったが、自分が良い家柄に生まれて、そうではない者が居て、立場の弱い者たちを守りなさいと父の朔から口を酸っぱくして言われていた。

雛乃がその‟立場の弱い者たち”に含まれることを理解した暁は、芙蓉の膝に上がって抱き着きながら顔を見上げた。


「母様も父様と身分違いだったの?」


「そうよ、私はたかが地方の豪商の娘というだけだったけれど、父様は私を選んでくれたの。柚葉だってそうよ、あの子も私と同じ。暁…あなたも誰を選んだっていいの。ただし、この家のお婿さんになってくれる人でないと駄目よ」


跡取りだから、と言われて頷いた暁は、その後――周囲を巻き込んだとんでもない騒ぎを起こすのだが、まだ幼い暁は素直でまっすぐだった。


「私はどんな人を好きになるのかなあ」


未来に思いを馳せて、天満と雛乃の行く末を楽しみにして足をばたつかせた。
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