天満つる明けの明星を君に②
吉祥は、立ち入り禁止と言われた場所には近付かなかったものの、屋敷内をほぼ自由に歩き回っていた。

鬼族の中では鬼脚と呼ばれる名家に生まれ、鬼族の頂点に立つ鬼頭家の足元には及ばないものの、邪険にはできない。

それを分かっているから、多少嫌な顔をされても庭を闊歩し、雛乃の姿を求めて歩き回る。

時々雛乃の姿を見かけるものの、そこには必ず天満の姿が在り、一歩も近付くことはできなかったものの、遠野に居た頃よりも格段に健康的でふっくらした雛乃は――一段と可愛らしくなっていた。


「…また見てるね」


「やだな…」


暁の鍛錬の合間に縁側で休憩していた天満は、雛乃と茶を飲みながら庭の奥の方でこちらを見ている吉祥を見つけた。

それまで明るかった雛乃の表情が曇って俯くと、天満は突然雛乃の肩を抱いて硬直させた。


「な…っ、な何を…!」


「しーっ。僕の言う通りに。自然にしていて」


これは吉祥を撃退する作戦なのだと理解した雛乃は、頬を赤く染めながらも頷いた。

これ幸いにと天満はそのまま雛乃の膝をすくい上げて自分の膝に乗せると、まるで口づけをするように顔を寄せて笑みを履いた。


「これ位はしておかないと、吉祥は納得しないよ」


「で、でも…恥ずかしい…!無理です…!」


「そう?作戦の難易度はこれからどんどん上げるつもりだけど…そうだなあ、日頃から慣れておいた方がいいのかもね」


「ど…どういう意味でしょう…」


「普段からこうして慣れておこうっていう話だよ。今日から実践しよう、そうしよう」


――何故かひとりで納得して頷いている天満に不安を感じつつ、吉祥に疑いを持たれぬよう、寄り添って見えるようにおずおずと天満に身体を預けた。


…幸せだなあ、と思いつつも、吉祥の嫌な目つきが気になっていた。
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