天満つる明けの明星を君に②
天満が暮らしていた家は鬼陸奥の最奥にあり、途中繁華街を通らなければいけなかった。

樹齢数千年の木の下に作られた集落は本来鬱蒼としていて暗いはずなのだが、鬼族が多く住む集落のため、灯籠に鬼火を封じてそれをあちこちに飾り付けているため、あまり暗いと感じることはなかった。


「暁、ここが雛ちゃ…僕のお嫁さんが経営してた宿屋。経営権はもう手放しているはずなんだけど、みんなは今でも良くしてくれてるんだ」


「ふうん…」


――力の強い妖は、声にも妖力が宿る。

暁は父の朔の血を色濃く受け継ぎ、まだ幼いながら声色ひとつで大人をも委縮させることがある。

人見知りする方でもないが、夜叉の仮面を付けて顔を隠し、あまり話さず気配を殺すことで、鬼頭家の者ということを誰にも知られることはなかった。

だが――天満は違う。

鬼頭家の三男であることは広く知られており、その天満が連れている幼女ということは必然的に関係者と分かるが、鬼陸奥の住人たちは素知らぬふりをしながらちらちらふたりを見ていた。

天満の子でないことだけは分かる。

何せここでは恐ろしいことが起こり、天満は悲しみのあまり命を落としそうになったのだから。


「ここを抜けると大木を抜けるから青空が見えるよ。僕が耕してた畑は雑草がすごいだろうなあ、後で整備しないと」


「私も手伝う!ぽんちゃんも!」


飛んで行くと早いが敢えて徒歩を選んだ天満は、ゆっくり歩きながら少し高い所にある家が見えてくると、何度も静かに深呼吸をした。

雛菊の生家は宿屋の番頭を筆頭に定期的に掃除をしてくれている。

雛菊と暮らした家だけは中に入られたくなくてそのままにしているため、掃除をしなければならない。


「家の中も埃だらけだと思うから掃除手伝ってくれる?」


「うん!」


繋いでいた手をきゅっと強く握られると、心が落ち着いた。

そして天満は暁を連れて、鬼陸奥で暮らした家をはじめて訪れた。
< 11 / 213 >

この作品をシェア

pagetop