天満つる明けの明星を君に②
ひとり用の布団にふたりで寝る――いくら大きめの床と言えど、それはないだろうと顔を赤くしたり青くしたりしている雛乃に考えさせる暇を与えるつもりのない天満は、さっさと雛乃の床を隅に押しやった後、紺色の羽織を脱いだ。


「ほら、早く」


「でも…でも…!」


「一緒に寝るだけ。なんにもしないから」


…それは男が女を口説く時の上等文句のようなものだったが、恋愛経験のない雛乃はそれを知らず、天満を信用しているという一点は疑っていなかったため、緊張と不安で手を擦りあわせながら、ようやく頷いた。


「わ、分かりました…。これも若様に帰って頂く作戦のひとつ…」


「そうそう。あの男意外としぶといみたいだし、僕と君の間に妙な距離感があったらそれを察知されそうだから、なるべく僕に慣れてほしい」


…そうは言っても、惚れた男。

目が合うだけで鼓動が高鳴ってどうしようもなくなるのに、密着して寝るなんて――到底考えられることではなかったが、ある意味美味しい状況になっているといい風に考えるしかない。


「私…ぽんちゃんとしか一緒に寝たことがなくて…」


「ぽん?狸の姿の時でしょ?男と一緒に寝るのは僕がはじめてだよね?」


「そう…ですけど…」


にこーっと笑った天満の笑顔につい見惚れた雛乃は、先に床に横たわった天満に手招きされて、こんな薄い浴衣一枚で色々見えたりしないかと心配しつつも、天満と距離を保ちながら横になった。


「ねえ、これって一緒に寝たうちに入らないんだけど」


「でも…これが限界…」


「限界?いや、これで限界って言われても…」


――天満に背中を向けていた雛乃は、急に引力を感じて驚くと共に、天満に抱き寄せられたのだと気付いて身を固くした。


「あったかい」


「て…天様…」


腰に回った腕の力強さ――

急激に身体が熱くなって、発火しそうになった。
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