天満つる明けの明星を君に②
「僕に触られるのは…いや?」


耳元でそう熱く囁かれると、全然嫌な気ではなかった。

何もかも未経験で、しかも体験させてくれる男で惚れた男ともなれば…もうこのまま身を委ねてもいいのではないか、と思ったものの、もし天満にその気がないのであれば、恥ずかしさのあまり穴でも掘りたくなる。

それに天満は‟何もしない”と約束してくれたのだから。


「…天様は…いつもこうして女を寝床に引きずり込んでるんですか?」


「ふふ、そんなことはしないよ。こういうことをするのは…お嫁さんだけ」


「…」


ずきん、と心が痛くなった。

妻子を亡くして幾星霜――ようやく他の女に目を向けるようになり、それが自分なのであれば、なんという幸せなことだろう、と思った。

だからこそ――雛乃は身体の向きを変えて天満と向き合うと、なるべく感情を出さないように努めながら、訴えた。


「今も…奥方様を愛してらっしゃるんでしょう?」


「…うん」


「じゃあ何故私にこんなことを…」


「君が…気になるから。吉祥を追い出す作戦なんて、どうでもいい娘だったら協力なんてしない。君だってそんな目をして…」


――熱く濡れた目を自分がしているのだと気付いてとてつもなく恥ずかしくなった雛乃が天満の腕から逃れようとしたものの、その腕は力強く身体に絡みつき、逃れることは到底できなかった。


「見ないで…見ないで下さい…!」


「僕の顔をよく見て。…同じような目をしてない?」


恐る恐る顔を上げると、天満もまた雛乃を恍惚とさせるような憂いに満ちた透き通るような美貌に熱く濡れた目で見つめてきていて、身体が弛緩した。


「天様…私…どうしたら…」


「目を閉じて…」


何をされるのか――?

きっとそれは、嫌なことではないはず。

雛乃は天満に身を委ね、目を閉じた。
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