天満つる明けの明星を君に②
…”雛菊"とは誰のことなのだろうか?

記憶とは、一体何のこと?

――とても恐ろしい話を聞いた気がする。


”また会えただけで“と天満は言った。

また?

再会という意味ならば、違う。

天満とは、この屋敷ではじめて会ったのだから。

だが今ふたりが話していた会話の内容は、”雛菊“という女についての話だ。


「誰…」


呟いたと同時によろめき、柱にもたれかかりながらずるずる座り込んだ雛乃を驚きをもって振り返り、そこに絶対に聞かれてはならない者の姿を見た天満は――頭の中が真っ白になって言葉を紡ぐことができなかった。


「今の……今の話は…まさか…私のこと…じゃないですよね…?」


「雛、ちゃん…」


「私は雛乃です。でも…雛菊って…誰のことですか…?」


互いの頭の中が真っ白になっていた。

何か言い訳をしなければ、と普段はよく回転する頭を必死で働かせた天満だったが、今ここで真実を打ち明けるべきか、取り繕って誤魔化すべきか――判断できずにいた。


「教えて下さい…教えて…!私が見てるもの、私に聞こえるものは一体なに?雛菊としての記憶って?」


――輪廻転生。

この鬼頭という一族は長い間存続しており、輪廻転生した者も数名居る。

故に特別な一族だと妖の間ではまことしやかに囁かれていて、崇拝の対象ともなっている。


「聞こえるもの…?雛ちゃん、君には一体何が…」


「その前に教えて下さい!雛菊さんって誰?私とどう関係があるんですか?私は…一体…なに…?」


両手で顔を覆って肩を震わせている雛乃に駆け寄った天満は、何度も抱きしめようとしては躊躇して目の前に座ることしかできないでいた。


「君は……僕の大切な女の子なんだ。…今も、昔も」


「……昔、って…?」


「長い間、待ってた。その声も顔も、仕草も…全部変わってない。僕は、君を待ってたんだよ…」


――嫌な予感がした。

自分の全てを否定されそうな予感がして、不安に押しつぶされそうになっていた。
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