天満つる明けの明星を君に②
天満は、自分を通して違うものを見ている――

そう確信した雛乃は、胸の奥から競り上がってくる強烈な不安と怒りに目の前が真っ赤になっていた。

度々、天満は言っていた。

‟今度こそ”と。

今度こそ、とはもちろん過去に何かがあったわけで、それを繰り返さないために天満は警戒している――それが何だかは分からなかったけれど、亡くした妻のことだろうと思うとやるせなくなり、考えないようにしていた。


「私は…誰ですか?」


「君は…雛ちゃんだよ」


「私は雛乃です。それは間違えていませんか?」


「…僕にしてみれば、両方雛ちゃんだ」


これで確信した。

先程天満と朔が話していた‟雛菊”とは、天満の亡くした妻の名であり、天満は自分を通して前妻を見ている――

だとすれば、今まで天満がとても親切にしてくれたのも、好いてくれたのも…実際は‟雛乃”のことではなく、雛菊のこと。


拒絶が生まれた。


天満に対して猛烈な怒りを覚え、数歩後退りしてきっと天満を見据えた。


「私は雛乃です。あなたが亡くした奥様じゃない」


「…!雛ちゃん…」


「そうやって最初から親しく‟雛ちゃん”って呼んでくれていたのも、奥様を想って言ってたんでしょう?…馬鹿にしてる」


「馬鹿になんか…」


「輪廻転生はあるかもしれません。だけど私は産まれてからずっと、雛乃として生きてきました。あなたが…あなたが私を‟雛乃”として好いて下さっていたなら…そうであったら良かった…」


天満はただただ絶句していた。

雛乃は間違いなく雛菊であり、ふたりを分けて考えたことなどない。

だが雛乃の顔に拒絶の色が浮かんでいるのを見て、立ち竦んでいた。


「私…失礼します」


「雛ちゃん、待…っ」


「務めは果たします。だけど…私に話しかけないで下さい」


振り返らず居間を飛び出た。

…天満は途方に暮れた顔をしていた。

それを分かっていても、自分の感情を抑えるのに必死になっていた。
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