天満つる明けの明星を君に②
雛菊を亡くした直後の天満は絶望に打ちのめされて、今にも自死してしまいそうな緊迫感を漂わせていた。

晴明と雪男の三人でなんとか思い止まらせたものの、暁が産まれるまでの長い間、天満はずっと鬼陸奥で独り家に籠もって暮らしてきたのだ。

長い長い邂逅の末にようやく雛乃と出会えたことは何にも代えがたい僥倖であり、ようやく弟の幸せな姿を間近で見れると安心していた朔は、居間に入った途端天満の様子を見て、当時感じた嫌な予感を覚えて背筋が震えた。


「天満」


「…」


立ち尽くしている天満の袖を引いて縁側に導き、そこに座らせて長い間待っていた。

そして天満が口を開くまで数時間かかり、凍り付いたように動かない横顔にようやく苦笑の色が浮かんだ。


「話を…聞いてもらっていいですか?」


「うん、お前が話すまでいつまでも待つつもりでいた」


「…ふふ、百鬼夜行に出るまでかかったらどうするつもりだったんですか」


「ぎんに任せて行かないつもりだった。お前の一大事は俺の一大事だ。話の内容によっては、今日は休む」


兄の気遣いにようやく若干緊張が解けた天満は、ぽつぽつと先程の出来事を話し始めた。

その内容から、雛乃が雛菊の記憶を持ち合わせて転生していたならば、と口をついて言いそうになったものの、ないものねだりをここで言っても仕方がない。

第一雛乃と対面した全員が、雛菊だと認識した。

その時点で申し訳ないが、雛乃として認識することは難しかった。


「お前は雛乃をどう認識している?」


「…分かりません。雛ちゃんは僕にとって雛ちゃんでしかないんです。ふたりを区別したことなんてない…。ないと思いたい」


「それをそのまま雛乃に言ってやればいい。だがその‟声が聞こえる”ということはお祖父様に話しておこう」


こくんと頷いた弟の項垂れた様子に朔の胸が痛んだ。

どうにかしてやりたい――

もとより何でもするつもりだったし、天満と雛乃を離れ離れにさせるつもりはなかった。
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