天満つる明けの明星を君に②
朔がぎんと呼ぶ九尾の白狐は、その時屋敷の屋根の上で寝そべって寛いでいた。

本来は(しろがね)というのが真名なのだが、朔たちはぎんと呼んでいて、ふたりの話を聞いていた銀は、逆さ吊りの要領で晴明を待っているふたりに声をかけた。


「ちなみに若葉は転生して死ぬ前の記憶を持ったと言っていた。俺たちとは違うだろうが、声が聞こえるとかの話は、雛菊が雛乃に話しかけたんじゃないのか」


朔が指で下りてこいと合図すると、銀はひらりと華麗に着地して銀色の長い前髪をかき上げて腰に手をあてた。


「そう…なのかな」


「ああそれで思い出した。蔵にある代々の当主が遺した書物の中に、同じような内容があったと思う。俺より芙蓉の方が詳しいかもしれない」


「なんか…みんなを巻き込んでしまって申し訳ないです」


「お前がひとりで解決できない問題なら、全員が知恵を出し合えばいい。本当なら父様や母様に相談するのば一番いいが」


「母様は神仏全てに愛されていますから助けてくれたかもしれませんが、これは僕の問題なので」


――自分にはこうしてみんなが集まってくれるが、雛乃はどうだろうか?

唐突に不安になった天満と朔の目が合った時、朔は察したように頷き、天満の手に盃を持たせた。


「芙蓉たちを行かせてある。女たちに任せた方がいい」


「そうだな、お前ら全員嫁に頭が上がらないからな」


「その代表はお前だろうが」


雪男がくつくつと笑いながら茶々を出したが朔に返り討ちに遭い、閉口。

その時晴明が屋敷に着き、全員が居住まいを正して待ち受けた。


「やあ、待ったかい」


「お祖父様、お忙しい中申し訳ありません」


「いやなに、孫が思い悩んでいると言うから、私の全知能を総動員して解決に勤しむとも」


烏帽子を取って微笑んだ晴明の明朗で快活な様に皆が密かに安堵した。

何せ晴明は知らないことがない、と言っても過言ではないほど物知りであり、誰も言い負かすことができないほど頭が回る。


「さあ天満、顔を上げなさい。この好々爺にもう一度話してくれるかい?」


「はい、お願いします」


何にでも縋るつもりでいた。

もう、離したくはないから。
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