天満つる明けの明星を君に②
一方の雛乃は、まず隠れ家にしていた客室に引き篭もっていると暁に乗り込まれ、その後次々と芙蓉や柚葉、朧がやって来て、ひとりで考える時間を失っていた。


「ねえ雛ちゃん、天ちゃんと喧嘩したの?天ちゃんに怒られた?」


「いえ…怒られては…いませんけど…」


「天ちゃん怒ったことないもんね。じゃあ雛ちゃんが怒ったの?」


「待ちなさい暁、雛乃さんと天満さんに何があったのか話してもらわないと」


…別に相談があると言ったわけではないが、自分より深刻な顔をしている四人を目の前にしては、そんなことも言い出せずに膝を抱えてうずくまった。


「私が天様を怒らせたんです。私が言ってはいけないことを言ったから…」


急に嗚咽がこみ上げてきてしゃくり上げた雛乃にかける言葉を無くした芙蓉たちは、代わる代わる雛乃の頭を撫でたり背中を摩ってやったりして泣き止むのを待っていた。


暁を除いて全員が雛乃の素性を知っていた。

だからこそ、どんな手を使ってでもふたりを幸せにしてやりたいし、天満の憂いを払ってやりたいと強く願っていた。


「すみません…泣きじゃくっちゃって…」


「落ち着いてからでいいのよ。私たちこうして勝手に押し掛けちゃったから、考える時間もないわよね、ごめんなさいね」


――芙蓉のように抜きんでて美しい女に労われると余計に涙が出て静かに頬を濡らしていると、それを包み込むような笑顔の柚葉が猫の刺繍をした可愛い手拭いで涙を拭ってくれた。


「独りで考え込まない方がいいこともあるの。私も柚葉も、朧さんも夫と夫婦になるまでは色々あったの。経験者の言葉と思って聞いてちょうだい」


ここに居る全員は信用できる――

暁はいまいちぼんやりしていたが、ここに居てくれるだけでなんだか嬉しかった。


「天ちゃんに泣かされたのなら、私が今から天ちゃんを泣かして来…」


「待って!待って下さい!勝手に泣いたのは私だから…」


――そこから雛乃は拙い言葉で話し始めた。

相談できる存在が傍にあるということだけで充足感に包まれ、本音を打ち明けた。
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