天満つる明けの明星を君に②
そうやって雛乃が慰められていた頃、朔の傍には何故か雪男が張り付いて監視されていた。

「鬱陶しい。あっちに行け」


「いーや、主さまが何か仕出かしそうだからここに居る」


「俺が何をすると言うんだ」


「例えば雛乃を責めたり、屋敷から追い出したりとかだな」


「俺はそんなことしない。お前じゃあるまいし」


「は?俺がいつそんなことしだっつーんだよ」


「朧と夫婦になる前お前散々女遊びしてたじゃないか」


「いや…それは…もう済んだ話じゃ…」


「なーんにも、済んでませんけど?」


言い合いをしていた最中背後を取られた雪男は、錆びた人形のように首を動かして目の笑っていない笑顔の朧を見て引きつった。


「ちょ、ちょっと待て!こんな言い合いしてる暇なんか…そうだ、天満の件をちゃんとしないとだな、そのー…」


「俺たちにできることはもうない。天満と雛乃の問題だ。ただ…」


縁側で花を見ていた風だった朔の横顔は、普段見せない凍ったような無表情になっていて、雪男と朧を文字通り凍りつかせた。


「俺は弟が可愛い。天満がこれ以上傷つくようなら、あれらの意思なく縁を切らせる。氷雨、お前はそれをよく覚えておけ」


真名を呼ばれた雪男は背筋を伸ばして喉を上下させた。


「分かった、覚えておく」


「天満は今どうしてる」


「部屋に居ると思うけど、これからどうすんだよ主さま」


「…天満が落ち着いたら話を聞いてくる」


「そうだな…。しっかし…大変なことになったぞ」


雛乃が天満を拒絶――

それは誰もが想像していなかったことでもあり、次の手を打つには双方の言い分を聞かなければならず、深いため息をついた朔は、その場に倒れ込むようにして寝転んだ。


「本当にお前たちはそれでいいのか…?」


前世で繋がれた運命だとしても――?
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