天満つる明けの明星を君に②
天満と雛乃はいずれ夫婦となるだろう――

皆がそう思っていたが、どうやらふたりの仲は破綻したらしい、という情報は百鬼の間ですぐに広まった。

女たちはたいそう喜んだが、天満に想いを伝えようと言う者はほぼ居ない。

もちそん女とは目を合わせない天満の性根は変わらないのだから、時が経てばあるいは…と虎視眈々と狙う者は多かった。

また憔悴していた天満だったが、自分がこんな状態を長引かせれば朔に迷惑がかかるだろうと重たい身体を引きずって暁の教育にあたっていた。

その間雛乃はふたりの前から姿を消して雲隠れしている。

それは今の天満にとって有難かったが――朔のある発言に内心深いため息をついていた。


『お前たちの進展がない以上雛乃をここに置いているわけにはいかない。お前もつらいだろうが、どうか前を向いてほしい』


と。

雛乃は追い出される――時期は明言されなかったが、自分を思ってそう言ってくれているのだろうと分かっていたが、自分の傍から雛乃が離れていくということは想像できなかった。


「天満」


「朔兄…」


暁との鍛錬を終えて所在なげに池の前に佇んでいた天満に声をかけたのは、朔だった。

憂いを含んだ伏し目がちな目で兄を見た天満は、ふわりと笑って緊張を和らげようとしてくれている朔に同じように笑いかけた。


「ここずっと雛乃から逃げられていたんだが、今日話をしようと思う」


「話って…ああ、ここを出ていくっていう…」


「そうだ。芙蓉と柚葉に引き留めてもらっているから、今から行く。お前も行くか?」


もちろん答えは分かっていて問うた朔だったが、案の定答えは否だった。


「分かった。後でどういう話になったか教える」


「…はい」


踵を返した朔は、一度弟を肩越しに振り返った。

天満の背中は――とても小さく見えた。
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