天満つる明けの明星を君に②
朔の‟時”は何より貴重だ。

その時を無駄に浪費させていた雛乃は、物音ひとつ立てずに待っている朔と雪男に一言も発することができず、委縮していた。


どうするつもりだ――そんなの、分かるわけがない。

天満と話すつもりはないのか――そんなの、‟私”を好きになってくれていたわけではないのだから、会ってしまえば何を口走ってしまうか分からない。

…だが、日増しに会いたい、と思ってしまう。

気を遣って会わずにいてくれている天満がまた悪夢を見てはいないか――自分がこの屋敷に来てから悪夢は止んだ、と聞いていた雛乃は、それをとても喜んだのに。


「…主さまは」


言葉を切った雛乃は意を決して顔を上げて、静かに見つめてくる朔をなんとか見据えて背筋を伸ばした。


「主さまは、私をどうするおつもりですか?」


「端的に言う。お前がこれ以上天満と関わらずにいたいと思っているのならば、屋敷から出て行ってもらう」


「…」


「お前を煩わせたあの男とは二度と接触しないよう手配もする。次の働き口も用意する。ただ…」


――二度と天満とは会わないでくれ。


無言でそう言われたような気がした雛乃は、唇を噛み締めて眉根を絞った。

…離れたいわけじゃない。

そんなこと、思うはずがない。

ただこの気持ちが――自分の気持ちではなく、‟雛菊”という女の意思であるならば?

天満を想うこの気持ちが本当の自分の気持ちではなかったならば?


どうしても、疑問が拭えない。

自分が分からないのに、今後を示せと言われても、分かるわけがない。


「…」


また黙り込んでしまった雛乃を腕を組んで見ていた朔は、少し肩で息をつき、それを口にした。


「天満には近いうちに見合いをさせる」


「……え…?」


青天の霹靂だった。
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