天満つる明けの明星を君に②
あまりにも意外なその発言に、空気のように気配を消していた雪男は思わずぱっと顔を上げた。

…そんな話は聞いていないし、朔に相談もされていない。


「ぬ、主さま?」


声をかけた雪男だったが、唇に人差し指をあてた朔の指示にぴたりと動きを止めて座り直した。

…知らない話だったが、雛乃の本音を引き出そうと言う作戦にも見えなくはない。

もし朔が本気だったならば…その準備をするつもりはある。

何しろ鬼頭家で未婚なのは天満だけ。

縁談ならば、掃くほどある。


「お…お見合い…」


「天満にはまだ話をしていないが、お前が駄目ならば誰でもいいと言うかもしれないし、その辺は気にしなくていい。後はこちらで進める」


もう話は終わった、と言わんばかりに立ち上がった朔を縋るような目で見つめた雛乃は、畳に爪を立てて必死の形相で吐き出した。


「私は、私ではないんです!私が思っていることや、感じていることが私じゃなかったら!?天満様が私を通して見ているのは――」


「お前は雛乃であり、雛菊だ。天満はそれを分けて考えたことはないし、俺たちも分けて考えたことはない。…これは助言だが、互いを否定しない方がいい。己の感じたままを受け止めればいいと、俺は思う」


朔が雪男を伴って客間を出ていくと、雛乃は突っ伏すようにして身体を丸めてうずくまった。

己の感じたままに――

天満を許せないという思いと、絶対に離れ難いという思いが共存しているのに、どちらを信じればいいのか?


許す?

許せない?


…自分はこんなに偉かったのだろうか?


選んでもらった身なのに?


「どうすれば…」


どうすれば、この思いを受け入れられるのだろうか――?
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