天満つる明けの明星を君に②
客間を出た朔は、後ろからついて来る雪男が一言も発さないことに笑みを浮かべた。


「何か言いたげだな」


「…主さまには何か考えがあるんだろ。俺はそれに従うだけだ」


「もちろん考えはある。だから後でちゃんと話をするから、準備を進めてくれ」


「本当にここから追い出すのか?」


「それはあれら次第だ」


…この家の者たちは、とにかく身内に甘い。

天満の幸せを願ってこそ、朔自らが動いているのだろうし、自分もまた我が子のように育てた天満には絶対幸せになってほしいと思っている。


「天満はまた悪夢を見ているそうだ」


ぽつりと朔がそう言うと、雪男は唇を真一文字に結んで足を止めた。

その悪夢とやらは、常に天満を蝕み続ける。

何故かその悪夢を見る度に暁が察知して傍に居てくれていて、それでなんとか心の均衡が取れている。

それに暁は天満の部屋に居を移した。

月のものを迎えてから成長目覚ましい暁だったが、天満を父とも兄とも思うように慕い、その悪夢を打倒すべく日がな傍に居る。

よって前のように多くの時を暁と過ごすことはできなかったが――何故か暁にはとても思い入れの強い雛乃は、独りで過ごすことが多くなっていた。


「想像の通り、今あのふたりは全く会っていないし話をしていない。だが塞ぎ込みがちな雛乃を芙蓉たちが声をかけて独りにさせないようにしている。…だがそれも――」


朔は本気なのだ、と雪男は悟った。

雛乃を排除し、天満に見合いを――


「天満宛ての縁談希望の文はお前が管理していたな。すぐに準備して…」


「いいや、主さまは今から寝るんだ。百鬼夜行に支障が出たら大変だろ。ある程度の選別は俺がしておくからさ」


朔が苦笑して頷くと、雪男は朔の肩を叩いて歩き出した。

あの山のような縁談の文から天満の伴侶を見つけ出さなくてはならない――

考えるだけで頭が痛かった。

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