天満つる明けの明星を君に②
朔から直接雛乃に話をすることはもうなかったが、朔から話を聞いた芙蓉と柚葉は大いに盛り上がり、雛乃から話を聞きだすことに躍起になっていた。


「で!?天満さんとまた同室なんでしょ!?何かあったり…あったりしたのかしら!?」


「ちょ、ちょっと芙蓉ちゃん、がっつきすぎ…」


鼻息荒くぐいぐいと迫ってくる芙蓉にじりじり距離を詰められて壁まで追い込まれた雛乃は、顔を赤くして手を振った。


「な、なんにもないです!色々あったので…そんなにすぐには…。あ、でも…」


「でも!?」


「えっと…あの…」


先程部屋で天満から軽く迫られたことをぼそぼそと小さな声で話した雛乃だったが――

それを聞いて大いに燃えた芙蓉と柚葉は、身をくねくねと震わせて両手で顔を覆った。


「天満さんったら…!そんな迫り方をするのね、素敵!」


――芙蓉と柚葉にとって天満が偶像的な存在であることは知っていたものの、あまりの盛り上がり様に若干引いた雛乃。


「もう随分ご無沙汰なはずよ。雛乃さん、準備はしっかりね」


「い、いえ、そんな…私たち、最初からはじめようっていう約束なので…」


「最初からということは、最後もあるのよ?ああ私、朔より先に天満さんと出会っていたらどうなっていたか分からないほど素敵な方だと思っているのに」


「私も!」


しゅばっと挙手をした柚葉と芙蓉が大いに盛り上がっているのをぽかんと見ていると、襖がとてつもなくゆっくりと開いて顔を出したのは――


「さ、朔!?」


「か、かかか輝夜さん!?これはその…」


「お前たち、面白い話をしていたな。ちょっとあっちの部屋でゆっくり話を聞こうか」


…にっこり笑っているはずなのに、その笑顔がとてつもなく怖く見えた朔に芙蓉が涙目になり、柚葉は凍り付き、雛乃はあわあわと口を両手で塞いだ。


「俺の弟がいい男だと言うのは分かっているが、ふうん…俺より先に出会っていたら、ね…」


――あの朔が、拗ねている。

百鬼夜行の主の意外な素顔に口が開いてしまった雛乃だったが、それぞれ朔と輝夜に芙蓉と柚葉が悲鳴を上げながら連れ去られると、残り物の饅頭を口に押し込めてぺたんと座り込んだ。


「天満様とまたひとつのお布団で…寝るのかな…」


それは何故か苦行のように思えて喉がつかえそうになった。
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