天満つる明けの明星を君に②
鬼頭家の日常は何やら通常の妖とは違う点が多く存在する。

その中でも、妖は通常夜分に活動し、日中は寝ている。

だがこの家の者は…当主の朔と雪男以外は寝ていたり起きていたり――自由に振舞っている。

先代が人を嫁に迎えたため、半分人の血が混じっているためおかしくはないけれど、天満もそれに該当した。


「天満様は今日も戻って来ないのかな…」


同室になってはじめての夜になると、天満は部屋を出て雪男や輝夜と過ごすことが多い。

まあ…雪男ひとり居ればどのような有事があっても問題ないのだが、兄弟の結束はとても固く、そこに割り込んで入って来る余地はなさそうで、雛乃はひとり部屋で繕い物をしていた。

そして雛乃もこの屋敷に来てから夜に寝ることが当然のようになっていたため、大きな欠伸をして慌てて閉じた。


「ちょっと横になろうかな…」


ころんと横になるとたちまち睡魔が襲ってきてすやすや寝てしまった雛乃は、どの位の時間が経ったのだろうか――何やらとても温かいものを背中に感じて覚醒しないままぴとりとその何かに背中をくっつけた。


「…あの…不用心だよ」


「…?」


腹に回ってきた大きな手――はっと目が覚めて身を固くすると、ふっと笑う気配がした。


「寝てた?起こしたかな、ごめんね」


「てててて、天満様…」


「ちょっと抱き枕になって…」


身体に埋め込まれるようにしてぎゅうっと抱きしめられた雛乃は、今までずっと――こうして男と触れ合うことができなかったことを不思議に思えてていた。


天満なら何をされても気持ち悪くないし、むしろ――


そう思う気持ちさえも不思議で、身体に回っている大きな手をなでなで、と撫でていると、天満が居心地悪そうにもぞりと動いた。


「あの…雛ちゃんから触られるとちょっと変な気分になるから…」


「変な気分…って…?」


「へ、変な気分は変な気分だよ。具体的に知りたい…?なら……あれ、雛ちゃん?」


体温が移ってまた睡魔が襲ってきて寝てしまった雛乃。

寝ようと思っていた天満は結局、一睡もすることができずに雛乃を抱きしめ続けて葛藤していた。
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