天満つる明けの明星を君に②
跡取りとして、物心つく前から百鬼夜行の主の屋敷には出入りしていた。

その頃からすでに天満と輝夜は幽玄町に戻っていたが、紬は彼らの生い立ちについて父から聞いており、その存在は紬にとって当然であり、時々は遊んでくれたり学ばせてくれたりした。

年頃になってからは父が、彼らと密に接していたら目が肥えてしまうから、と言って前ほど接することはなかったが、利発だった紬は十代後半のうちに正式に跡目を継ぎ、現在に至っている。


「天様、ここからは私の領分ですので」


「ああうん、じゃあこの辺で待ってるよ」


「!?いえ、帰りはひとりで十分ですので」


「ここまで来たら一緒に帰るよ。朔兄たちに酒…お土産を買おうと思ってたし」


――有無を言わさない。

恐ろしいほど衆目があるのに本人は至って平然としていて…というか目に入れないようにしている。

ついには朝廷に通ずる大門の前に着いてしまい、たち警備していた者たちが天満を見て騒ぎ始めてしまったため、紬は天満の背中を押してその場から去らせようと躍起になった。


「分かりましたから、どうかこの場からお離れ下さいませ!」


「うん、紬が出て来たら分かるから捜さなくていいよ。じゃあまた後で」


…なんとも厄介な。

――いつの間にか恋心を抱いてしまった男の背中を見てため息をついた紬は、いつものようにすっと背筋を伸ばして気持ちを切り替えるよと、出迎えに来ていた衛士たちと共に朝廷へと入って行った。
< 197 / 213 >

この作品をシェア

pagetop