天満つる明けの明星を君に②
紬の用が終わるまで街を見て回っていた天満は目立ちすぎていたが、直接話しかけて来る者は居ない。

明らかに魔性の者であり、魅入られてしまうと骨抜きになって二度と普通の生活に戻れなくなってしまうと皆が理解しているからだ。

だが彼の母が人であることから、人に害為す者でないことは平安町の者は皆理解していた。


「だけど、紬の婿かあ。…ちょっと苛めてしまうかもしれないなあ」


紬が産まれる前から知っている身としては、暁と同様最早妹や娘といってもいい。

朔や輝夜も紬には甘いし、最近はなかなか弱みを見せないし甘えてこない紬にちょっかいをかけてからかっては反応を引き出そうとしていたりする。

――人は光の速さで死んでしまう。

今は若くて愛らしい娘でも、瞬きしている間に老いて死んでしまう。

だからこそ、皆が伊能の一族を大切にして慈しむ。

特に紬には幸せになってほしい、と皆が思っていた。


「どんな男を連れて来るんだろう…。ちゃんとした男でないと僕も含めてみんなが暴れるかもしれないな…」


不遜なことを言っていると、紬が大門から出た気配を察した天満は、早速迎えに行くと、仏頂面の紬を見て足を止めた。


「どうしたの」


「…あなた様の話題で帝はたいそうご満悦でした」


「ふうん、朔兄はともかく僕は一切朝廷の中の人たちには関わってないけど、なんで僕の話題に?」


――いつもは髪飾りなどつけていかないのに、御簾越しに帝からそれを指摘され、経緯を吐かされた結果、まだ独り身の天満から貰ったことを聞いた帝は…なんと唆してきたのだ。


‟そなたが惚れているのは明白故、嫁に貰ってくれと言ってはどうか”と。


「…なんでもありません!早く帰りましょう!」


「?」


全く理解できていない天満の袖を引っ張ってとにかく先を急いだ。

いくら疎い天満と言えど、今顔を見られてしまっては悟られるかもしれない――それほどに紬の顔は真っ赤になっていた。
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