天満つる明けの明星を君に②
せめて人目の少ない場所を通ろう、と考えた紬は、繁華街の両隣を流れる川辺沿いに天満を誘導した。

ここは柳の枝が優雅にしなだれかかっていて風情があり、気分を落ち着けたい時によく来る時がある。

紬にとって歩き慣れた場所だったが、あまり平安町を歩くことのない天満は物珍しそうにして川を覗き込んだりしていた。

…あれっきり会話はない。

意識しすぎて天満の顔を見ることすらできなかった紬だったが、普段ほとんど女と話すことのない天満は紬に対して饒舌に語っていた。


「時々雪男や朔兄が無茶ぶりしてくることがあるかもしれないけど、そういうのばっさり断っていいからね。君の父君はそういうの得意だったけど、紬は真面目だからなあ」


「…」


「あと、うちで今働いてもらってる雛ちゃ…雛乃っていう女の子だけど、内気な子だから、もしよかったら話をしてやってほしい」


――雛乃の身の上話は聞いているし、前世の話も朔からあらかじめ聞いていた。

そんな運命的なことがあっていいのかと羨み、妬ましく思ったこともあった。

だが所詮こちらは人の身であり、愛らしいあの鬼の娘に敵うはずもない、と諦めていた紬だったが、実際天満の口からそれを聞くと、めらめらと燃え上がるものが内から噴き出てきた。


「…私も内気ですから」


「内気同士気が合うかもよ」


「…いずれは天様の奥方になられるのですか?」


「え?うーん…多分…そう…なるといいね。……なんか急に暑くなってきたね?」


明らかに動揺して手で顔を扇いでいる天満を胡乱な目で見つめた紬は、目が合うとぷいっと顔を逸らして速足で歩きだした。

…どうにも気に食わない。

何もかも、が。








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