天満つる明けの明星を君に②
「紬は人なんだから、俺たちの速さにはついて来れないこと位分かっているだろう」


「すみません。怪我をしてるし恥ずかしいっていうからつい」


女の扱いが激しく下手――

そういう認識の朔や輝夜や雪男は、紬が天満に対して好意を持っていることも、天満が紬を妹のように思っていることも、知っていた。

だからといって天満と紬を夫婦にさせるわけにはいかず、取り急ぎ紬の婿候補を探している最中だったのだが――

縁側に青ざめた顔で寝かされている紬の身体に掛布団をかけてやった雪男は、深く息をついて腕を組み、しゅんとした天満を隣に座らせた。


「それに雛乃に出かけること言ってなかったろ。ちょっと怒ってると思うぞ」


「えっ」


「えっ、じゃねえよ。多分部屋に居ると思うから行って弁解してこい」


慌てふためいてその場から駆け足で去ってゆく天満の後ろ姿に、皆がため息。


「早々に天満と雛乃を夫婦にさせないと紬が報われないな」


「それもそうだが、あれが朝廷にまで近付いたのは問題だな。あまり深く関わると…」


――そこで朔が言葉を切ったのは、百鬼夜行を始めた初代と朝廷との関りが限りなく密であり、代々百鬼夜行を継ぐ者しか知ることのない秘密の関係だったからだ。

訳あって雪男はそれを知っていたため、その場ではそしらぬ顔をして聞いていたが、輝夜の関心を逸らすために紬に目を遣った。


「お前んとこの長男なんか婿にどうだ?」


「人は先に死にますので、感心しませんね。それこそそちらの方が子が多いのですから婿にやっては?」


「うーん」


「とにかく、やっと天満と雛乃がまた元通りになりそうなんだ。俺たちは黙って見守るのが一番いい。紬の件は俺が預かる」


「はい」


「了解」


ふたりの返事を聞いた朔は、また厄介ごとが増えてやれやれと肩を叩きながら紬の頭をぽんぽんと撫でた。
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