天満つる明けの明星を君に②
「主さま、ちょっと耳に入れたい件がある」


読みかけの本から顔を上げた朔は、雪男の若干緊迫した顔を見て本を置いた。

すでに雪男から話を聞いていたのか、庭には九尾で白狐の(しろがね)やその子である(ほむら)、雪男の子である氷輪と、晴明の子である白雷が勢ぞろいしていた。

これは良い話ではないな、とすぐ悟った朔は、人払いをして彼らを縁側に集めた。


「どうしたんだ」


「随分前にここを発った吉祥一行が…遠野に戻って来てないそうなんだ」


「…なに?」


「悪い、もう済んだ件と思って帰路には見張りをつけてなかった。あっちの本家からまだ戻って来てないが元気にしているのか、って文が来てはじめて知ったんだ」


雪男に手渡された文をざっと読んだ朔は、顎に手をあててしばらく考え込んだ。

…吉祥の様子は、確かにおかしかった。

だがあの程度、色恋沙汰が関わればよくあることであり、鬼族は頭に血が上りやすい。

それを鑑みてあれは‟闇堕ち”ではないと判断したのだが――


「戻っていないのはおかしいな。今から捜索の手を…」


「朔、俺たちが行ってやろう」


ずいっと前に出た銀は、美しい色合いに変化する銀の目に明らかにこれはおもしろそうだと言わんばかりの色を浮かべて腕を組んだ。


「行ってくれるか」


「ああ。俺と息子で行く。百鬼夜行前には戻る」


「俺たちも連れてってくれよー!」


白雷が声を上げたが彼らはまだ幼く、完全にそれを無視した銀は、朔に恭しく膝をついて目を離さない息子の襟首を掴んで無理矢理立たせた。


「あまり良い想像はするな。じゃあな」


すっと飛び立ったふたりを見送った朔は、自分の落ち度だと言わんばかりに肩を落としている雪男のわき腹を小突いてまた本に目を落とした。


「この件、まだ天満たちには話すな」


「了解」


――嫌な雲行きになってきたな、と密かに眉間に皺を寄せた。
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