天満つる明けの明星を君に②
雛乃とひと時談笑した後、百鬼夜行に行く朔を見送りするため庭に下りた天満は、朔の微妙な表情の翳りに気付いていた。

…それに雪男や銀の態度も少しおかしい。

おかしいが、こちらの存在に気付きつつも何も言ってこないのは、関わり合いのない話なのだろうかと考えていた所に雛乃が合流した。


「天様?」


「うーん…なんとなく朔兄の様子、おかしくない?」


「?いつも通り…お綺麗ですけど…」


兄と言えど他の男を平然と褒められてちょっとむっとしたものの、それよりも何か隠されている気がする――と仲間外れのような気分になった天満は、朔に向かって歩み寄った。


「朔兄、何かあったんですか?」


「いや、ちょっと処理しないといけない件が面倒なだけだから心配するな」


「手伝いましょうか?」


「ぎんに任せるから大丈夫だ」


朔がぎん、と呼ぶのは銀の(あだな)だ。

かつてこの国や異国に大きな災いをもたらしたほどの大妖なのだが、朔の前では爪を隠した猫――いや、白狐で、一度も反抗せず、むしろ朔を猫かわいがりしていて言うことはなんでも聞く。


「銀、手が足りないなら僕に声かけて」


「ああ、その時は頼む」


端的にそう言って尖った八重歯を見せて笑った銀に笑みを返した天満は、今から百鬼夜行に出かけるために集まった大勢の百鬼にさっと流し目を送った。

その視線にあてられた女の百鬼たちはとろんとした表情になり、男の百鬼たちは一礼してまた仲間たちととりとめのない話を始める――日常に見えた。


「僕の…気のせい?」


「お前は何を勝手に悩んでいるんだ?それよりやっと戻って来た女をどう口説いて嫁にするか考えろ」


「!そ…そう…だねえ…」


そう簡単に言った銀だったが、銀もかつて胸が焦がれるほどの恋に身を落とし、長い間、亡くした愛しい女が転生するまで待ち続けた経緯がある。

実際本人からその話をちゃんと聞いたことがなかった天満は、自分よりさらに背の高い銀の肩にぽんと手を置いた。


「今度、銀の奥方との出会いの話を聞きたいな」


「ああ、三日三晩は必要になるから、覚悟しておけ」


微かな違和感を拭うことはできなかったが、その場の雰囲気もあって問い質すことはできず、出発した朔たちを見送った。

< 204 / 213 >

この作品をシェア

pagetop