天満つる明けの明星を君に②
百鬼夜行までに戻ると言って幽玄町を出た銀の足取りは――

銀の察知能力は極めて高く、嗅覚も利くため、‟それら”を見つけるのに時間はかからなかった。

あの一行――屋敷に入った時点で追い出してやろうかと思っていたが、朔が招き入れた客に堂々と因縁をつけるわけにもいかず常に目を離しはしなかったが…


「あれか」


上空でくんと鼻を鳴らした銀は、鬱蒼と茂る森の中に焦点をあてて金や銀に複雑に光る目を細めた。

…臭気がする。

それもだいぶ薄らいではいるが…薄らぐ前ならば、大量の血が飛び散ったに違いない。

天満の妻だった女が転生して現れた時点できな臭いと思っていた。

転生した者には、因果が巡る。

それは生前の記憶だったり、生前に執着された者の怨念が取り憑いたりすることが多い。

銀の妻の若葉は生前は人であり、転生後は同じく白狐として巡り合ったものの、生前の内気な性格はそのままだし、人だった時のように食事をして、夜に寝ることも多い。

あの雛乃と名乗った女――あれもまた何かしらの因果があるはずだ、と銀は疑って親しくしようとはしていなかった。


「ああ、食われているな」


銀が降り立った場所には、大量の骨があちこちに散らばっていた。

一応用心のために腰に提げている刀の柄に手をあててきょろりと辺りを見たが、何者の気配もない。

散らばった骨――頭骨には鬼の証である角がある者が多く、吉祥一行であることは明白だった。


「あれがやったのか。余程女を離したくなかったと見える」


執着心丸出しで雛乃を見ていたあの若造――

もしかしたら生前から因縁のある者なのかと考えながら、歩くのに邪魔な骨を足で蹴って除けたりしつつ、その数を指を折って数えた。


「ひとり分足りないな。共食いか…これはまた現れるぞ」


天満が不憫だと常日頃思っていた。

朔は常に気をかけて、天満を手元から離そうとしなかった。

ならば、自分が天満を守るのも道理だろう。


「朔に褒めてもらわないとな」


ぴょこぴょことふかふかの真っ白な尻尾を振りつつ、証拠のため頭骨をひとつ腰に提げて飛び立った。
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