天満つる明けの明星を君に②
話を聞いてほしい、と言ってきた割にはなかなか話そうとしない。

膝の上に座らわせ、顔を上げれば唇が触れ合ってしまうほどの近距離状態で自分の心臓の音が聞こえてしまうのではないかと戦々恐々の雛乃も、天満と同様押し黙ってじっとしていた。


「…暁が」


「?暁様が…どうかされたんですか?」


今朝も暁の世話をしていたが普通だったはず…と首を傾げた雛乃は、天満がなんとも言えない複雑そうな表情になっているのを見て、天満の長い人差し指をきゅっと握ってみた。


「暁…なんだか最近背が伸びて、大人びた気がしない?」


「ああ…そうですね、月のものが訪れてから確かに急激に背も伸びて胸も……」


鬼族の女ならばそれが普通なのだが、この鬼頭という一族――先代まで男系だったため、女の成長にはあまり詳しくないらしい。

今までずっと教育してきた娘の急激な変化に戸惑って寂しそうな顔をしている天満に胸が苦しくなった雛乃は、安心させるように天満の細いがたくましい腕を摩った。


「大丈夫ですよ、身体は成長しても暁様は暁様です。ふふ、急に女らしくなったから戸惑っているんですね」


「なんで今笑ったの」


「だって…暁様はきっとこれからもっと女らしくなって、綺麗になって、可愛くなって、男が放っておかないような美しさに溢れるに決まってます」


「ちょっと待って、それはいつ?来年?再来年?ああ…僕、暁を狙う男を全員殺してしまうかも」


それを真顔で言ってのけた天満だったが、雛乃は暁が成長した姿を想像して、ほうっとなった。


「どちらかと言うと主さま似だと思いますけど、どちらにしてもとんでもなくお綺麗になりますよ。一体どんな方と結ばれるんでしょう」


「…僕より強くなきゃ駄目」


「え…それは…無理難題ですね…。そんなんじゃ暁様がお可哀想…」


「家業を継ぐ暁は最強でなくてはならない。だから暁よりも僕よりも強い男でなくちゃ彼女は守れない。そう思わない?」


想像して悲しくなったのか、肩に顔を埋めてきた天満にどぎまぎしつつ、同意した。


「それはそうですね…。でもそんな方、現れるんでしょうか」


「現れなかったらそれはそれでいい。暁には弟が居るから彼が継いだっていいんだ。それは朔兄次第だけど」


――暁が年頃を迎えた時、本当にそんな男が現れることなどこの時は想像できるはずもなく、めそめそしてまだ見ぬ未来に恨みを馳せた。
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