天満つる明けの明星を君に②
暁を本当の娘にように思っている天満には激しく同意していた。

自分も時々暁を本当の娘のように思う時がある。

それはとてもおかしなことだったが、暁もとても慕ってくれているから、毎日がとても幸せだった。


「天様…そろそろ離してもらえませんか…」


「なんで?このままでいいよ」


「ええと…あ、そ、そうだ、さっき紬さんにお会いしました。はきはきしていて、綺麗な方でした」


「紬?そういえば何かの用で来てたね。彼女も年頃だから、僕が探してあげようと思ってるんだ」


「それは…酷なのでは…」


「え?酷ってどういう意味?」


「なんでもありません」


あまりの鈍感っぷりにため息をついた雛乃だったが、腰に回った天満の手にふいに力がこもって顔を上げると、髪から滴った水滴が頬に落ちた。


「天様、髪もちゃんと拭い…」


「そんなことより、こんなに近くに居るのに、何も感じない?」


――不意に目が合い、逸らせなかった。

その目の中にゆらりと揺れる青白い炎があまりにも美しく、その炎に見惚れているうちに、額に口付けをされ、くすぐったさに声を上げた。


「ひゃ…っ、ちょ…っ」


「僕の音を聞いて」


手を取られて導いた先には天満の左胸の上で、押し当てられた掌からは、力強く速い鼓動が伝わってきた。

天満も自分と同じように早鐘のように鼓動を打っていることが嬉しく、たくましい胸の固さに頭がおかしくなりそうになった。


「私も…私も同じですよ…」


「確かめたいな…触ってもいい?」


「だ、駄目!」


「こうしてまたふたりの時間を持ててることに感謝するよ。僕は…君だけは失えないんだ。君にだけは、僕を全て知っていてほしい」


かけがえのない存在なんだ、と耳元で囁かれた雛乃は、その静かな声の中に激しい情熱を含んでいるのを感じて声を震わせた。


「私だって…私だって、‟私”を知ってほしいです…」


「これから知っていくよ。僕に全てを見せて」


――ゆっくり重なった唇に、全身全霊で大切に扱ってくれているのが伝わり、身を委ねると、絡まる舌の優しさに身体の力が抜けた。


この人が愛しい――誰にも、渡せない。

互いに、そう思っていた。
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