天満つる明けの明星を君に②
押し倒された天満の身体の重たさがとても心地良かった。

このままなし崩しに身体を重ねても、もうどうだっていい――

愛されていることは十分すぎるほど伝わってきているから、‟雛乃”としての自分をこれから知っていくと言ってくれたことで、心は解放された。


「いいの?このまま抱いても」


「……」


雛乃は顔を赤くしながら頷いたが、天満は感情のまま雛乃を抱こうとする自身の不甲斐なさに、雛乃の首筋から顔を上げて見つめた。

ゆっくり時間をかけて関係を築いてゆく――そう約束したのだから、これは性急すぎる。

今までもうずっと長い間待ち続けていたのだから、舌の根も乾かぬ内に約束を破ることは、矜持に関わる。


「ごめん、つい迫りすぎた。怖くなかった…?」


「だ、大丈夫です…。天様…私は別に…」


「いや、君を知っていくと言ったけど、早まりすぎた。つい先日許してもらったのに、また嫌われたくないからやめておくよ」


身体を起こして髪をかき上げた天満がまた妙に色っぽく、乱れた胸元をかき抱きながら起き上がった雛乃は、恥ずかしさに顔を真っ赤にして首を振った。


「いえ、私こそ…」


「このまま抱いてたら、優しくできなかったと思うから。…できれば怖がらないでほしいな」


「そんな…怖いなんて思ったことありません。天様…」


雛乃が手を伸ばすと、天満はその手を取って掌にちゅっと口付けをした。


「一緒に寝てもいい?何もしないから。…多分」


「何もしないなら…いいですよ」


本当は、何をされてもいいけれど――

内心そう思いつつ、くすくすと笑い合って手拭いで天満の髪を拭いてやった。
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