天満つる明けの明星を君に②
天満がいくら細身であったとしても、ひとつの床にふたり寝るのは窮屈だ。

ふたつの床をひっつけて満面の笑みを浮かべた天満だったが――雛乃は緊張のあまり口から心臓が飛び出そうになっていた。


「あの…別々に寝ませんか…?」


「どうして?いつも一緒に寝てたでしょ」


「でも…男女同衾するべからずって…」


「それは今更じゃない?早く横になろうよ」


さっさと床に横になった天満は、隣をぽんぽん叩いて有無を言わさぬ姿勢を見せた。

――天満は雛乃のこととなるととてつもない行動力を発揮する。

普段は女に対して話しかけもせず目も合わせないくせに、こと雛乃が関わることとなるとその行動から大胆な発言から――兄たちがこれを目の当りにしたら、きっと口が開いて塞がらなくなるに違いない。


「何も…しないんですよね?」


「お望みならば、なんなりと」


「じゃあ…約束守って下さいね?」


おずおずと近付いてもそっと隣に寝そべった雛乃だったが、すごい速さで抱き寄せられて胸の中にすっぽり収まってしまった。


「!ちょ、天様!」


「なんにもしてないよ」


「なんにもって…してるじゃないですか…」


「何かするっていうのは、例えばこれを脱がせたり、直接肌に触ったり、じゃない?」


天満の指が浴衣の帯にかかると、雛乃は飛び上がりそうになりながらその手を押し止めた。


「わ、分かりましたから!」


相変わらずぐいぐいくる時はくるな、とどこか冷静に考えていた雛乃だったが、朔や輝夜が妻の芙蓉や柚葉に対する接し方などを鑑みると…大人しい方だ。

彼らは超がつく行動派であり、大胆だ。


「眠たくないなら、何か話をする?」


「話…ですか?そうですね……亡くした奥さんのこととか」


天満が息を呑む音が聞こえた。

立ち入ってはいけない話題なのかと後悔しかけた時――耳元で小さな声が聞こえた。


「君が望むなら」


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