天満つる明けの明星を君に②
先に戻って来た雪男の困惑に染まり切った表情を見た朔は、見ていた文を脇に置いて腕を組んだ。


「どうした」


「いや…俺の気のせいかもしんねえんだけど…天満は?」


「ふらりと出かけたまま戻って来ていない。…一体なんなんだ」


なお困惑している雪男の脇を何かがさっと通り過ぎた。

それは朔の前に素早く行儀よく座ったぽんで、平身低頭して地面に頭を擦りつけた。


「主さま、おらの幼馴染がここまで自力で来てくれたんでやす!」


「そうか、それは良かった。で、どこに?」


「その…あの娘っ子は極度の人見知りなんで、主さまを困らせるかも…」


「困らない。早く連れて来い」


朔に促されたぽんは、どこかに隠れているらしい雛乃を引っ張り出すため居なくなった。

そしてぽんを見送った後、雪男を凝視。


「で?」


「いや…見たら分かる。間違いなければ顔も声も…いや、でもこんなことってあるのかな…」


言い含んで朔を若干いらっとさせた雪男だったが、ぽんが引っ張り出してきた娘を見た途端、朔は腰を浮かせて唇を半開きにした。


「雛…菊…?」


「?主さま、この娘っ子は雛乃っていう名でやす」


「ああ…そうだったな、すまない。だけど…」


――雛菊だ。

この娘は間違いなく、雛菊が転生した娘だ。

朔の超直感が強くそう訴えかけていた。


「雛、主さまにちゃんとご挨拶するんだ」


「は、はい…」


蚊の鳴くような声だったが、それもかつての雛菊の鈴を転がしたような可愛らしい声だった。

意を決して顔を上げた雛乃をじっと見た朔は、とうとうこの日がやって来たのだと思ったと同時に、前世の記憶を持ち合わせていない風な雛乃を天満がどう思うか考えていた。


だが、会わせなければならない。

雛菊が――雛乃自らが、この地までやって来たことは、偶然ではない。


会いに来たのだ。

天満に。
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