天満つる明けの明星を君に②
天満は元々鬼陸奥という北の地に居を構えていた。
そこは妻だった雛菊と共に暮らした地であり、雛菊が遺した宿屋を時々手伝いながら心静かに暮らしていた場所だった。
そこから兄の朔に引っ張り出されたのは――兄に娘が産まれたからだ。
鬼頭家初の女が次期当主ということもあり、大丈夫だろうかと心配して幽玄町の実家を訪れた彼は――その日からまた兄たちと共に暮らすこととなった。
「ねえ天ちゃん、天ちゃんったら」
日々、付きまとわれる。
本来十六夜と妻の息吹との間に産まれた子らは全員、雪男の氷雨が教育を行って育て上げてきた。
そんな氷雨は天満たちの末妹の朧を妻に娶り、大勢の子らに恵まれている。
手が回らないわけではないが、朔は教育係兼後見人として、天満を指名した。
「ちょ、暁、今刀の手入れをしてるから危ないよ」
「天ちゃんの刀って本当にきれいで素敵。いつか私にちょうだい?」
「暁がちゃんと当主として起つことができたらね」
「どうゆう意味?弟には絶対あんなに危ないことさせないんだから」
ぷうっと頬を膨らませた暁は、現在齢十。
当主として起つにはまだまだ十分ではなく、女だからとつい刀の稽古も手加減してしまう。
暁は幼いながらも美しく、母の芙蓉の真っ赤な目の色を受け継いで黒と赤がせめぎ合う不思議な目の色をしていた。
百鬼夜行の次代の当主が女だということは妖の間にも知られることとなってしまったけれど、その容姿までは露見していない。
これも暁が女だからと人前に出る時は夜叉の仮面を付けさせて素顔を晒さないようにしているからだ。
暁はきっと美しい娘になるだろう。
彼女が当主として立派に起ち、いつか恋をして手元を離れるまでは――自分が師であり、守るべき存在。
「ふふ、今でも思うけど、やっぱり変なことになったなあ」
「何が?ねえ、何が?」
何度も袖を引っ張られたけれど、天満は笑うだけで答えなかった。
そこは妻だった雛菊と共に暮らした地であり、雛菊が遺した宿屋を時々手伝いながら心静かに暮らしていた場所だった。
そこから兄の朔に引っ張り出されたのは――兄に娘が産まれたからだ。
鬼頭家初の女が次期当主ということもあり、大丈夫だろうかと心配して幽玄町の実家を訪れた彼は――その日からまた兄たちと共に暮らすこととなった。
「ねえ天ちゃん、天ちゃんったら」
日々、付きまとわれる。
本来十六夜と妻の息吹との間に産まれた子らは全員、雪男の氷雨が教育を行って育て上げてきた。
そんな氷雨は天満たちの末妹の朧を妻に娶り、大勢の子らに恵まれている。
手が回らないわけではないが、朔は教育係兼後見人として、天満を指名した。
「ちょ、暁、今刀の手入れをしてるから危ないよ」
「天ちゃんの刀って本当にきれいで素敵。いつか私にちょうだい?」
「暁がちゃんと当主として起つことができたらね」
「どうゆう意味?弟には絶対あんなに危ないことさせないんだから」
ぷうっと頬を膨らませた暁は、現在齢十。
当主として起つにはまだまだ十分ではなく、女だからとつい刀の稽古も手加減してしまう。
暁は幼いながらも美しく、母の芙蓉の真っ赤な目の色を受け継いで黒と赤がせめぎ合う不思議な目の色をしていた。
百鬼夜行の次代の当主が女だということは妖の間にも知られることとなってしまったけれど、その容姿までは露見していない。
これも暁が女だからと人前に出る時は夜叉の仮面を付けさせて素顔を晒さないようにしているからだ。
暁はきっと美しい娘になるだろう。
彼女が当主として立派に起ち、いつか恋をして手元を離れるまでは――自分が師であり、守るべき存在。
「ふふ、今でも思うけど、やっぱり変なことになったなあ」
「何が?ねえ、何が?」
何度も袖を引っ張られたけれど、天満は笑うだけで答えなかった。