天満つる明けの明星を君に②
産まれたばかりの暁を一目見た時、得も言われぬ愛着を覚えた。

なんて可愛いんだろう、とずっと見つめていると、暁もまたじっと見つめて来て――へにゃっと笑った。

暁を腕に抱いた時に、我が子をほとんど抱いてやれなかったことを思い出して、涙が出た。

すると暁は小さな小さな手で指を握ってきてまるで慰めてくれているようで、ああ、この子を守りたい――と思った。

兄の朔が後見人として自分を指名したのは、それからすぐのことだった。


「ねえ天ちゃん、柚葉(ゆずは)ちゃんが耳飾りを作ってくれるって言ってくれたの。どんなのがいいかな」


「耳飾り?暁は相変わらずお洒落だね。君は目が不思議な色をしているから…赤かな?」


――柚葉とは輝夜の妻であり、朔の妻である芙蓉の親友だ。

時に家具から着物、小物、装飾品までも作り、幽玄町内で店まで開いてこれが大層な繁盛っぷりだった。


「そうかなあ、天ちゃんがそう言うんなら赤にするね」


ひとつの饅頭をふたつに割って渡してきた暁とふたりで饅頭を齧りながら空を見ていた。

暁はまだ幼いながらも柚葉の影響からか耳飾りや帯飾りなどに興味があり、毎日違うものを身に着けている。


そういえば――雛菊も少ないながら遺していったものがあるな、とぼんやり思った天満は、暁の口の端についている饅頭を指で掬って食べながら笑いかけた。


「僕の奥さんが持ってたものがあるんだけど、使う?」


「えっ?天ちゃんのお嫁さんの?い…いいの?」


「いいよ、雛ちゃんも君ならいいってきっと言ってくれるし」


「わあっ、嬉しい!天ちゃんありがとう!」


猫のように腕に顔を擦りつけてくる暁と縁側で足をぶらぶらさせながら、天満は息をついた。


「一度鬼陸奥に戻らないと。数日留守に…」


「やだ!私も行く!」


「え」


駄々をこねる暁を困り顔で見つめた。

暁を連れて行くには朔の許可が居るし、護衛も必要だ。


「暁は留守番を…」


「やだもん!やだやだ!」


我が儘爆発。
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