天満つる明けの明星を君に②
「すみません、横から出しゃばってしまって」


「いや、構わない。暁と雛乃に関してはお前に一任しているから」


ぽんの父母を退出させた後朔に頭を下げた天満は、片手で口元を覆って赤くなっている顔を隠した。


「なんか僕、やっぱり雛ちゃんのことになるとむきになってしまって…」


「そんな雛乃とは仲は深まったのか?手でも繋いだか?いや、それ以上のことを…」


「な、何もしてませんよ!」


汗って顔の前で手を振る天満は兄弟の中で最も奥手であり、雛乃――雛菊以外の女とはほとんど接する機会を持って来なかった。

雛菊が死んでから時がかなり経ち、芙蓉と柚葉には若干心を開いている感はあったものの――


「何もしていない…?だが雛乃はお前の顔を見てぽうっとしているし、気があるんじゃないか」


「そうですよ、お前は女子の方から告白させるような男気のない男なのですか?私たちの弟はそんなに度胸のない男だったとは…」


「ちょっと待って下さい、僕だって迫りたいですよ。い、いや、迫りたいっていうか…もうちょっと時間を置いた方がいいかなと思って…」


「雛乃は可愛いからお前がもたもたしてるうちに知らない男に奪われるかもだぜ。そうなるとまた同じことを繰り返しちまうぞ」


雪男の忠告が胸に刺さった。

確かに前回はそれで取り返しのつかない過ちを犯してしまった。

雛乃を大切にしたいと思う気持ちが強すぎて強く出られない自分が居るのは確かで、兄弟や雪男の助言はとてもありがたく、無視のできないものだった。


「そうですね…もうちょっと強く出てみます。そうしなきゃいけないと僕も思ってたから」


「お前に強く出られたら、どんな女でもすぐ落ちるだろう。応援するから頑張れ」


はにかんだ天満の頭を三人でぐりぐり撫でた。

ふたりはもう恋に落ちているも同然――

後は、きっかけのみ。
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