天満つる明けの明星を君に②
天満が雛乃を連れ出したことは、すぐに皆に知られることとなった。

どうしてもふたりを親密な仲にさせたい朔たちだったが、輝夜の‟本人たちの意思のままに”という一言でなんとか介入をしないようにしていたが――


「柚葉さん、実は作ってもらいたいものがあるんですけど…」


「!?なんですか!?すぐに取り掛かります!」


ふわふわの癖毛を押さえながら顔を赤くして興奮しきりの柚葉は、ふたりが出かける前に天満からとある依頼を受けていた。

その内容にどれだけ忙しくとも最優先で取り掛かると決めた柚葉の意気込みはものすごく、輝夜を笑わせた。


「なんか周りがうるさくてぐみません」


「?いえ、私は別に気にしてませんけど…」


けれど、と言いかけて隣を歩く天満をちらりと見上げた雛乃は、まるで天満と逢瀬を果たしているようで、動悸が治まらなかった。


ここひと月、暁と天満と共に長い時を過ごした。

その都度何故か天満が時々とても優しい目で自分を見ていることが多く、恥ずかしいと思うと同時に何故だろうと思うことが多くなっていた。


「幽玄町は広いんですよ。端から端まで歩くととても一日じゃ回れないほどに。とりあえず今日は繁華街に行きましょうか」


「あ、は、はい。あの…天様」


「はい?」


「私はただの召使いですから、私に敬語を使う必要はありません。なので…」


川沿いを歩いていて足を止めた天満は、俯いてまごまごしている雛乃のつむじを見ながらふっと笑った。

…雛菊もよくこうやって俯いて話すことが多かった。

何も恥じる必要はないんだよ、と根気よく説得した結果、夫婦になってからはちゃんと目を見て話すようになったものの、最初の頃はこうして顔を伏せることが多かった。


「ああ、実は僕もこの話し方は他人行儀だから嫌だなって思ってたからちょうどよかった。雛乃さんも僕には敬語使わなくていいからね」


「え、でも…」


「僕がいいって言ってるんだから、いいの。ほら、この辺りから混んでくるからはぐれないように僕の袖を握っていて」


「あ、は、はい」


自然と手が伸びて天満の着物の袖を握った。

本当に自然に、そうしてふたりは歩き出した。
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