天満つる明けの明星を君に②
幽玄町は、美しい町だった。

住んでいるのは罪人で、幽玄町に連行されて強制労働させられ、過酷な暮らしを強いられている――というのは、平安町に住んでいる者たちの噂で、当の本人たちは実は平和に暮らしている。

ただそれ以上の罪を犯せば、幽玄町を治めている妖たちに食われてしまう――それだけは確かだ。


「わあ…色々あるんですね」


「ここだけで自給自足できる設備は整えているから、善良に暮らして居れば平安町と同じ暮らしができるんだけど、僕らとしては恐ろしい噂が立ってる方が自らこっちに住みたいなんていう輩が出てこなくていいんだ」


「そういうのも…可能なんですか?」


「赤鬼と青鬼を説得するか、彼らをすり抜けて幽玄橋を越えて町に入ればね。滅多にないことだよ」


天満の袖を持ってちょこちょこ歩いていた雛乃は、繁華街に入って様々な店が開かれていることに目を丸くしていた。

かたやついこの前までは遠野の田舎で暮らし、人里に下りたこともないし、こうして妖と人が共存している町など見たことがない。

ただ天満を目にするなり人垣が割れて通りやすくなるものの、穴が空くほど見られたり、女たちは天満の美貌に夢中になってうっとりしていたりで、雛乃を多少いらっとさせていた。


「天様はやっぱり目立ちますね…」


「まあね、でも目を合わさないのが最善なんだ。ていうか男たちは雛乃さんが可愛いから妙な目で見てるし、目を合わせちゃ駄目だよ」


とどのつまり、その空間を支配しているのは天満と雛乃であり、誰もが手を止めてふたりを見ていた。


「こういう風によく町を歩いたりしているんですか?」


「あんまり。今日は雛乃さんを案内したくて歩いてるだけ。ねえ、お腹が空いた気がしない?」


「え…わ、分かんないです」


人を食う系の妖でなければ、腹が空いたという概念は妖は持っていない。

空いた気がすると言われればそうかもしれないし、小首を傾げた雛乃ににこっと笑いかけた天満は、甘味処を指した。


「あそこの団子が美味しいんだ。ついでに朔兄たちにも買って行こう」


一目を気にせずすたすた歩きだした天満に引っ張られるようについて行った。

意外に強引――印象が変わった。
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