天満つる明けの明星を君に②
甘味処の主人は天満を見るなり飛び出して来てひれ伏すように頭を下げた。

男にはちゃんと目を合わせて話すことのできる天満は実に社交的で、誰をも魅了する人好きする笑顔を浮かべて優しく声をかけた。


「うちの者はここの甘味が大好きなんです。後で屋敷に届けて下さい」


「は、はい!光栄に存じます!」


屋敷は幽玄町の最奥にあり、周囲にはいつでも警戒を怠らない百鬼が詰めている。

彼らが怖くて近寄れない住人たちは、こうして屋敷に招かれることを名誉と思い、終生それを誇りに思っていた。


「さて、これが美味しいんだ。うん、美味しい」


運ばれてきた餡がたっぷり入った団子を頬張った天満の幸せそうな顔を見た雛乃は胸がいっぱいになり、口に入れた団子の味が分からず、天満に顔を覗き込まれた。


「口に合わない…かな?」


「!いえ!とっても…とっても美味しいと思います…」


「思う?」


「なんか味が分からなくて…その…なんか緊張しちゃって…」


――雛菊もそういう所があった。

談笑している最中、目が合うと照れて俯いてしまい、その度に天満は笑って雛菊の肩を抱いてからかったものだ。

意識されている、と分かると嬉しくなる。

触れたいと強く思ったけれど、それはまだしてはいけないのだと自制していた。


「緊張…何に?僕に?」


「え…そ…それはそうですよ…だってこんな…逢引きみたいじゃないですか…」


最後の方は蚊の鳴くような声で言ったものの、それをしっかり聞き取っていた天満は、牙が疼くような衝動を感じて身体をもぞりと動かした。


「逢引き…。そうだね、そう見えなくないかも」


「ちょ…っ、からかわないで下さい…!」


顔を真っ赤にして怒る雛乃の可愛らしさに、顔がにやつきそうになり、片手で口元を覆った。

今後の雛乃の人生に関わって、必ず幸せにしてやりたい――

幸せになりたい。
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