天満つる明けの明星を君に②
妖は夜行性だが、半妖の暁はある程度成長するまでは人と同じように日中活動して夜に眠る。

暁の教育係として常に侍らなければならない天満の睡眠時間はとても少なく、また頻繁に悪夢を見るため、それについて不満はなかった。

雛乃は客間のひとつを与えられて、そこで過ごしていたが、常日頃暁が遊びに来るため、ひとりになるのは眠る時位だった。

また生粋の妖であるため日中に眠ることが多く、そういう点では暁が語っていた天満の悪夢について、まだその現場に遭遇したことがなかった。


「雛ちゃん!」


「!」


大きな声で身体をゆさゆさ揺らされた雛乃が眠りから覚めると、すぐ傍に顔を覗き込んで焦り顔の暁が座っていた。


「暁様…どうしたんですか?」


「天ちゃんが悪い夢に捕まってるの。雛ちゃん一緒に行こ。私冷たいお水持って行くから先に行ってて!」


「は、はい」


天満の部屋は分かるが、入ったことはない。

寝癖を直すのも忘れて浴衣のまま部屋を飛び出した雛乃は、長い廊下を小走りに行って天満の部屋の前で立ち止まった。

中からは、微かな呻き声。

苦しそうなその声に居ても立ってもいられなくなった雛乃は、そっと襖を開けて覗き込んだ。

部屋の中央には床が敷いてあり、天満は横になっていたが――歯を食いしばり、全身汗に濡れながら眉根を絞って呻いていた。


「天…天様…大丈夫ですか…?苦しそう…」


見ているだけでも辛く、すぐさま枕元に座って畳を掻きむしりそうなほどに強く握られている拳を見つめた。


触れたい――

その手を包み込んで、大丈夫だと言ってあげたい。


「天様…」


「う…っ」


呻き声は止まず、苦しんでいる表情に涙が出そうになった。

その手に触れたい。

その欲求は、雛乃が男に対してはじめて抱いた欲求だった。
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