天満つる明けの明星を君に②
天満が未だ覚醒状態ではないことは、そのうっすら開いたやわらかい眼差しで分かっていた。

正気なら、こんなことをする男ではないはず。

寝ぼけて襲われてはたまったものではない。

だが――この熱い手、熱い牙、熱い身体…はじめての体験なはずなのに、知っている気がする…。

そして甘噛みされた首筋…全く痛くはなく、むしろ快感にも似た気持ち良さで、恍惚としてしまっていた。


「雛ちゃん…ああ…ずっとこうしたかった…」


「て…天様…」


首筋から顔を上げた天満と超至近距離で目が合い、頬に添えられた大きな手は普段温厚な天満が立派な男である証で、ぞくぞくした。

それに…触れられても全然嫌ではない。

今まで失神するほど男に触れられるのが嫌だったのに、天満にはむしろ…もっと触ってもらいたいとさえ思っていた。


「もっと…こっちに来て…」


「きゃ…っ」


ぐいっと腰を抱かれて引き寄せられた雛乃は、再び天満と密着することになり、唇と唇が触れ合う距離まで近付いていた。

もちろん生娘だし、口付けもしたことがない。

このまま寝ぼけている天満に奪われるのは本望ではないし、せめて…せめて正気の時にこうして迫ってきてくれたなら…


「雛ちゃん、居るー?」


「!あ、暁様…!」


暁は天満をとても慕っているし、こんな男女の濡れ場のような現場を見せるわけにはいかない。

どうにかして逃れなければと天満の固い胸を強く押した雛乃は、なんとか重たい身体から逃れると、乱れた浴衣を整えてずりずり天満から遠ざかった。


「ど、どうぞ」


暁が襖を開けて入ってきた時――天満は直前まで反覚醒状態の虚ろな目のまま雛乃を見つめていたが、そのまま眠りに落ちてしまった。


身体が熱い――

燃えるように、ひどく。
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