天満つる明けの明星を君に②
「雛ちゃん…そこ、どうしたの?」


天満に噛まれた左の首筋を押さえていた雛乃の顔が真っ赤で、純粋に心配した暁は冷水の入った湯飲みを傍に置いて雛乃の隣に座った。


「なんでも…なんでもありません…」


「ほんと?天ちゃん寝てるね。悪い夢見てたと思ったんだけど、違ったのかなあ」


「いえ、さっき少し起きてましたから…落ち着いたみたいです。あの私、失礼します」


「?うん」


そそくさと退出した雛乃を見送った暁は、天満にもそりと近付いて床の中に潜り込んだ。

いつもは眉間に皺を寄せて苦しそうにしているのだが、穏やかに眠っている様子を見てほっとすると共に、女と話すのが苦手な天満が雛乃にだけは打ち解けている様子に、顔がにやけていた。


「天ちゃんは雛ちゃんのこと好き?雛ちゃんになら譲ってあげてもいいよ」


あくまで天満は自分の物だという認識だったが、何故か雛乃にだけは譲り渡してもいいと素直に思っていた。

そしてそのまま天満の懐に潜り込んだまま暁が眠った頃、雛乃は部屋に戻って箪笥を開けると、物色していた。


「これを…これを隠さなきゃ…」


天満に噛まれた跡――

首筋というより肩甲骨のあたりに近かったが、着物を着ていても見える位置にある。

明らかに噛まれた跡であるためそれを追及されるだろうし、寝ぼけていた天満は覚えてもいないだろう。

だから、隠さなければ。


「無い…どうしよう、みんなに知られちゃう…」


――天満の言葉が蘇る。

‟雛ちゃん”と呼んだからには自分のことなのだろうが、話していた内容は自分ではないような気がするし、もやもやする。

だがはっきりしたことがある。


「私…天様のこと…」


いつの間にか、好きになっていた。
< 65 / 213 >

この作品をシェア

pagetop