天満つる明けの明星を君に②
とんでもない身分違いだと思った。

あんなに強くて美しい男――しかも鬼族の始祖ともいうべき名家の出で、天満が声をかければどんな女でも言いなりになってしまうだろう。

…告白するべきではない。

告白せず想いを隠していられれば、傍に居られる、はずだ。


「そうだ、柚葉さんの所に…」


柚葉は屋敷の中に工房を持っており、そこでとにかく様々な物を作っている。

柚葉も芙蓉もきっと衣装持ちで首巻き位持っているだろうが、芙蓉は柚葉に比べると美女すぎてどこか近寄りがたい。

柚葉を選んだ雛乃は、途中迷いながらも柚葉の工房に辿り着き、中から聞こえる金槌で何かを叩いているような音を聞いて、襖をそっと開けた。


「あの、柚葉様…」


「えっ、あ、雛乃さん!?はじめてここに来てくれたね、散らかってるけどどうぞ」


それは謙遜ではなく部屋の中は工具や色鮮やかな布などが散乱していて足の踏み場もない状態。

すり足で柚葉の前に座った雛乃だったが、首元を押さえていることにすぐ気付かれて口ごもった。


「実は虫に刺されてしまって…腫れているし、お目汚しをしたくないので、首を隠す物をお持ちじゃないかと思って…」


「大丈夫?ちゃんと治療した?薄いけど首巻きあるからこれ使ってね」


蒲公英色の可愛らしい薄い首巻きを貸してくれた柚葉に頭を下げた雛乃は、柚葉のふんわりした雰囲気にあてられてほっとして足を崩した。


「ありがとうございます、良かった…」


「私とか芙蓉ちゃんとか朧ちゃんね、雛乃さんと仲良くなりたいの。だからもっと頼ったり話しかけてくれると嬉しいな」


「はい、これからはそうします。鬼灯様と出会った時のお話とか聞かせて下さい」


「えっ、そ、それは照れちゃう…」


鬼灯様とは輝夜の通り名であり、実は興味津々だった雛乃はふたりでにこにこして時を過ごした。


友ができたみたいで、嬉しかった。

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