天満つる明けの明星を君に②
雛乃の毎日は、暁の世話に始まり、暁の世話に終わる。

ほぼほぼ付きっ切りで侍り、暁の身の回りの世話は全て任され、暁に懐かれ、よって家族同然の扱いとなっていた。

暁たちは半妖であるため食事は本来摂らなくていいのだが、彼らは一緒に食卓を囲むことを重んじて三食共にする。

ひと月が経ち、彼らと共に食事をするようになった雛乃はがりがりだったがふっくらしてきて、緊張もだいぶ解けてきていた。


「首、治らないね。どんな虫に刺されたの?」


あれから数日が経ち、今だ天満の噛み跡が消えずに首巻きをしていた雛乃は、花畑に水を遣るため桶を手にしていたのだが、それを現れた天満に奪われて見上げた。

…疑われているのだろうか?

天満に時々こうして探りを入れられていた雛乃は、ぶんぶん首を振って柄杓を桶に入れた。


「分からないですけど…赤みが取れないし、お目汚しになるので」


「別にお目汚ししたりしないよ。ちょっと見せてくれる?」


「!だい、大丈夫ですから!それより天様は今休憩中なのでは?ちゃんと休んだ方がいいですよ」


「うん、だから一緒に休憩しようと思って。はいこれ」


天満が手渡して来たのは、白い包み紙だった。

それを開いた雛乃は、中から色とりどりの星形をした金平糖が出てきたのを見て目を輝かせた。


「わあ、私これ、好き」


「だと思った。一緒に食べよう」


――だと思った?

遠野の故郷でも時々しか食べれなかったけれど、この屋敷に来てからは食べたことがない。

訝しんで眉を潜めた雛乃に対して天満は肩を竦めて意地悪気に口角を上げて笑った。


「甘い物好きでしょ?ようやくがりがりから脱したってみんな喜んでるよ。ほらこれ沢山食べてもっと太って」


「わ、私…太ってますか…?」


「はは、悪口じゃないってば。屋敷に戻ろう。そろそろ暁も昼寝から起きるから」


天満に恋をしている――それを気付かれてはならない。

それはとても、難しいことだった。
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