天満つる明けの明星を君に②
妖の頂点に立つ朔の周囲には、目が潰れるほど容姿の整った妖が集結している。

そうなると必然と暁の目も肥えることとなり、第一関門として鬼頭家に産まれた娘たちは教育係の雪男に興味を引かれることが多かった。

だが暁の関心は、天満だ。

天満が悪夢を見たり、悲しい思いやつらそうにしていると、それが何故か瞬時に分かり、寝ていても飛び起きて会いに行って一緒に寝る。

寝ても覚めても天満と共に過ごしてきた暁は大好きな天満と外に出れることが本当に嬉しくて、いつも以上に引っ付いて離れなかった。


「ねえ天ちゃん、いつ行く?今から?明日?」


「護衛を選ばないとね。どうしようかな」


百鬼(ひゃっき)と呼ばれる朔と共に百鬼夜行を行く妖たちは連れて行けない。

そうなると――


「天様!おらを連れて行って下せえ!」


狐狸(こり)君を?まあ君は隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)から預かってるだけでまだ百鬼じゃないけど…うーん」


天満の前にちょこんと座ったのは真ん丸な狸の姿をした妖で、百鬼の候補として預けられた幼体だ。

必死になってちょこまか動きながら朔の手伝いをしている姿が可愛らしく、雪男たちにもよく可愛がられている。

人型にももちろん化けられるものの、狸の姿の方が落ち着くらしく、二本足で立ち上がってごますりをするように両手を擦り合わせていた。


「お願いします!お嬢を必ずお守りしやす!」


「天ちゃん、狐狸君も連れて行こうよ。絶対楽しいから」


「楽しいって…全く…遊びじゃないんだからね」


狐狸と暁にうるうるした目で見られて呆れた天満は、仕方なく頷いて狐狸の前で屈むと、頭を撫でた。


「僕と暁の傍から絶対離れないように。君は隠神刑部からの預かり者なんだからね」


「はい!ありがとうございやす天様!」


「出発は明日。今日はよく寝るように」


一匹とひとりがきゃっきゃと騒ぐ。

また心配事が増えた天満は、二本の愛刀を引き寄せて手入れに時間をかけた。

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